ひところ、「45歳定年制」の論議が話題になったが、「社長の定年制」の話はトント聞かない。
そんななか、日本の社長サンの高齢化が止まらないことが、帝国データバンクが2022年3月4日に発表したリポート「全国『社長年齢』分析調査(2021年)社長交代による若返り16.5歳 平均年齢は60.3歳 過去最高を更新」で明らかになった。
欧米ではイキのよい30代、40代のトップが珍しくないのに、日本では70代以上が4人に1人だというのだ。大丈夫か、ニッポン?
「70代以上」の社長サン、4人に1人の衝撃
帝国データバンクの調査結果によると、2021年12月時点の全国の社長の平均年齢は60.3歳(前年比プラス0.2歳)。なんと、調査を開始した1990年以降右肩上がりの状況が続き、31年連続で過去最高を更新した。1990年には54.0歳だったのが、ついに10歳以上も上昇したわけだ=図表1参照。
年代別にみると、「50代」が27.6%と最多で、「60代」(26.9%)、「70代」(20.2%)と続く。欧米では多いとされる「40代」は17.1%しかなく、「30代」にいたっては3.2%だけだ。また、「80代以上」で社長を続けている人が4.7%いることが目を引く。「70代」と「80代以上」を合わせると約25%になり。日本の社長サンの4人に1人が70歳以上、ということになる。
業種別に社長の平均年齢をみると、「不動産業」が62.4歳で最も高く、「製造業」(61.3歳)、「卸売業」(61.1歳)、「小売業」(60.3歳)と続く。とくに、もっとも高齢化が進む「不動産業」の場合、ほかの業種では「60代」が占める割合が最多なのに比べ、「70代」が占める割合が1位で、これはいったいどういうわけだろうか。ちなみに、社長サンの平均年齢が最も若い業種は、「サービス業」(58.8歳)だった。
高齢社長のトップ3は秋田・岩手・青森
また、興味深いのは、都道府県別にみたデータだ。最も社長サンの高齢化が進んでいるのが「秋田県」で62.3歳(全国平均比プラス2.0歳)。次いで「岩手県」62.1歳(同プラス1.8歳)、「青森県」61.9歳(プラス1.6歳)と、東北3県がトップ3を占めた。前年(2020年)のデータを見ても、トップ3は同じだ。これもいったいどういうわけだろうか。
また、東北をのぞいて主に東日本では、東京都(同59.7歳)と石川県(59.3歳)以外は全国平均を上回る結果となった。一方、前年比減となったのは西日本の島根県(マイナス0.1歳)と徳島県(マイナス0.1歳)の2県のみで、全体的に「東高西低」の状況が続いている。
さて、帝国データバンクでは、社長の高齢化が止まらない一番大きな理由を、後継者不足、つまり「事業継承」による世代交代進まない現状にある、としている。2021年の社長交代率は3.9%と低水準の状態が続く。交代企業の平均年齢は交代前の68.6歳から交代後の52.1歳へと、平均16.5歳の若返りとなった=図表2参照。
帝国データバンクでは、今回の調査についてこう分析している。
「社長年齢の上昇は、(中略)事業承継や世代交代などが進んでいないことを表している。事業の将来的な存続に欠かせない後継者の選定と育成にかかる時間を見誤ると、不測の事態が起きた際に円滑な移行に失敗する危険性をはらむ」
「世界的に事業を取り巻く環境が変化しつつある今、企業がこれまで培ってきた経営資源や企業が紡いできた長年の歴史を絶やさないためにも、内部からの昇格や外部からの招聘、あるいは近年さらに増加しつつあるM&A(企業・事業の合併や買収)なども視野に入れたさまざまな事業承継の形から、会社の将来を選択する必要に迫られている」
半世紀ぶり倒産減少なのに、後継者難倒産「最多」のナゾ
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査を担当した帝国データバンク情報統括部の旭海太郎(あさひ・かいたろう)さんに、社長の高齢化が止まらない理由についてさらに詳しく聞いた。
――社長の高齢化が止まらない一番の理由は何でしょうか。社会全体の高齢化もあるのでしょうか。
旭海太郎さん「日本の企業の大半は中小企業で、世代交代と事業継承が進まないことです。ようするに後継者が見つからないため、高齢になっても現職にとどまっているのです。社長の年齢別に調べると、60代で約半数、70代で約4割、80代以上で約3割が、後継者がいないと答えています。これは大変な事態です。
私たちは今年1月にも『社長の後継ぎがみつからない...後継者がおらず倒産した企業、2021年は過去最多を更新』というリポートを発表しました。
そのなかでも述べていますが、実はいま、倒産する企業がものすごく減っていることをご存知ですか。コロナ禍2年目となった2021年の倒産件数は全国で6015件。これは前年(2020年)より23.0%ポイントも減っており、1966年以来、過去3番目に低い水準です。なんと55年ぶりの『歴史的な低水準』なんですよ」
――企業にとってはめでたいことですね。
旭さん「ところが、そうはいえません。倒産が減ったのは、コロナ対策として官民金融機関が行った、いわゆる『ゼロゼロ融資』に代表される積極的な資金供給策や補助金などのおかげです。
一方で、後継者難による倒産だけはハイペースで増え続けており、2021年には466件(全体の倒産の7.7%)と、過去最多を記録しました=図表3参照。全体の倒産が半世紀ぶりの記録的な減少となっているのに、跡継ぎがいないために倒産する企業が過去最多を記録するって、異常ではないですか」
――たしかにおかしな話ですね。
街の不動産屋に高齢社長サンが多い理由は?
旭さん「団塊の世代がすべて後期高齢者になる『2025年問題』が言われていますが、社長の高齢化もそのころに一段と、深刻化のピークを迎えると見られています」
――ところで、業種別にみて不動産業の社長の高齢化が一番進んでいるのはなぜですか?
旭さん「東京の高層マンションを開発する大手の〇〇不動産ではなくて、駅前にある街の不動産屋さんをイメージしていください。多くの不動産物件が店の窓ガラスに貼られていて、中に入ると、お爺さんやお婆さんがカウンターの向こうに座って、お客の応対をします。ビジネスとしては比較的ラクだ、ということがあります」
――なるほど。それと、秋田県や岩手県、青森県といった東北の社長の高齢化率が高いのはどういう理由からですか。「東高西低」が言われているそうですが。
旭さん「西が低いというより、東が高すぎる印象を受けます。東北では、男性の社長が年をとると、自分の息子に跡を譲るというイメージではなく、奥さんが後を継ぐ傾向が多いのです。そのため、社長が交代しても高齢化率が低くならないのです。だから、青森、岩手などは『女性社長』の比率調査で、全国トップクラスになります」
必ずしも東北各県で「女性活躍」が進んでいるからということではなく、「同族承継」の伝統があり、かつ、後継者となる子どもが都会に出てしまうケースが多いからのようだ。
調査は、帝国データバンクは企業概要ファイル「COSMOS2」(約147万社収録)から2021年12月時点の企業の社長データ(個人、非営利、公益法人などを除く)を抽出し、集計・分析した。
(福田和郎)