日本の構造的な人不足解消へ 「一億総才能開花社会」に期待
だが、「ディグる」ことで気づきを得ても、いきなり転職したりするのはハードルが高い。そこで、自分のキャリアを広げるひとつの手段として注目されているのが「社会人インターンシップ」。リクルートでは、社会人インターンシップのマッチングを担うプラットフォーム「サンカク」を運営し、「ディグる」ことで気づいた好奇心や情熱から自分の可能性をより広げる機会を提供している。
「サンカク」の場合は、企業側が自社の課題解決や新しいビジネスモデルの策定など、テーマを決めてその参加を呼びかける。一例として、ECサイト展開や首都圏進出などを検討している企業が、デジタルマーケティングなどのスキルを持つ人/興味のある人を募集する。参加者にとっては、その課題に取り組むことや、企業とのディスカッションを通じて自分の「やってみたいこと」を試せるし、いままで培ってきたスキルが社外でどのように役立てるか腕試しするチャンスとなるわけだ。
企業側のメリットも大きい。企業側が提示するテーマには、根本課題や経営課題に近い内容も多く、それだけに固定観念にとらわれないアイデアを求めているからだ。「サンカク」を担当する古賀敏幹さんは次のように話す。
「異業種・異職種からの参加者は多いですね。企業側としても、新しく出会った人から、自社や業界に新しい風を吹かせてほしいと考えているもの。いままで同じ業界の人と話していたら、気づかなかった視点がほしい、というわけです。社会人インターンシップがきっかけとなって、その会社への転職につながり、活躍する場合もあります」(古賀さん)
その好例は、社会人インターンシップから転職に至った元旅行代理店勤務の恩田さんだ(=図表4参照)。
恩田さんは、旅行代理店時代、2年半営業を経験した。その後、異動して、自社のUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)をともなうアプリ開発や、情報設計などの業務を担当。それを機に、「もっと関連知識を身に着けたい」と社会人インターンシップに参加した。インターンシップ先では、他社へのUX支援などデジタルマーケティング領域での経験を積むことができた。
しかも、恩田さんの取り組み方を見たインターンシップ先の担当者からは「顧客満足まで考えてプロダクト設計できるところがあなた(恩田さん)の強み」だと指摘された。それを聞いた本人は「営業時代に『どうすれば顧客満足につながるか』を考え抜いてきた自分の強みであり、スキルだ」と再認識した。思わぬ一言から「ディグる」ことで気づきを得た恩田さんは、インターンシップ先での仕事の面白さにもひかれ、そのまま転職して同社に入社し、現在も活躍中だという。
吉屋さん、恩田さんのような「ディグるキャリア」の実践を通じて、異業種・異職種への「越境転職」を成功させ、自身のスキルとワクワクする気持ちを大切にしながら活躍する人が増えてほしい、と藤井さんは期待を寄せる。
「日本には構造的な人不足があるので、一人ひとりが『一億総才能開花社会』にならないと、企業も成長できなくなってしまいます。働く人にとっても、才能が開花せずに終わってしまうのは損失です。だからこそ、個人も企業も再成長に向かって、適材適所で出会える社会をつくりたい、と私たちは考えています。しかも、その問題は『待ったなし』。世界のなかで日本は、人材の流動性も生産性も低いことは周知の事実です。そうではなくて、一人ひとりが夢中になって仕事に取り組み、活躍できる社会であってほしいと思っています」(藤井さん)
いま、ワクワクして仕事ができているだろうか――。ときには少し立ち止まって「ディグる」ことに、キャリア形成のヒントが隠されている。