ひねりの効いた家電を世に出してきたシャープが発表した幹部人事が波紋を広げている。
2022年4月1日付で、親会社である台湾企業・鴻海精密工業出身の会長兼最高経営責任者(CEO)がCEO職を退き、同じ鴻海出身者を副会長兼CEOに就かせて「後継者」と位置付ける一方で、かつて「後継者」だった生え抜きの社長兼最高執行責任者(COO)も存在する。不可解さをぬぐえないが、台湾企業にとって避けられないリスクを踏まえると、おぼろげながらねらいが見えてくる。
2018年、日本人役員3人を「共同CEO」としたが...
CEO職を退いて会長に専念する戴正呉氏は、経営危機に直面したシャープが鴻海の子会社になった2016年に社長として乗り込んできた。再建を成功させて2018年には会長兼社長となり、焦点だった次の社長にはシャープ生え抜きの野村勝明氏を選んで2020年にバトンを渡したはずだった。
だが、同じタイミングでCEO職とCOO職を設けて、戴氏がCEO、野村氏がCOOに就いたことが、今回の幹部人事の伏線となった。新たな人事では、1977年生まれの呉柏勲常務執行役員が副会長兼CEOに昇格することで、呉氏と野村氏のどちらが主導権を握るのか、外部からは見えにくくなっている。
そもそも戴氏は2018年、当時副社長だった野村氏ら日本人役員3人を「共同CEO」という役職に就かせ、そこから後継者を選ぶという触れ込みだった。今回の幹部人事にあわせて戴氏が従業員に発信したメッセージには「呉氏に今後のシャープの舵取りを託すことを決定した」と記し、これから1年間は会長職にとどまって、呉氏のCEOとしての立ち上がりを支える考えも示した。
いったんはシャープ生え抜きを後継者に選んだものの、屋上屋を架して鴻海出身者を後継者とした戴氏の判断は、ぶれているようにしか見えない。真意はどこにあるのだろうか。
そこで注目すべきなのが、この2年間の地政学的な変化だ。これと人事を重ね合わせると、読み解く鍵が浮かんでくる。