オンライン研修は本音を引き出しやすい
――コロナ禍でリモートワークが多くなりました。コミュニケーションの取り方について、この2年間の変化をどのように感じていますか。
桑原さん「リモートで人を育てたり仕事を進めたりするのは、多くの人が経験したことがなかったことです。やはり、最初の1年間はかなり混乱と試行錯誤の時期だったと感じています。弊社も研修はずっと対面でやってきましたので、コロナ禍の初年度はオンラインで受講することに対して、前例がないだけに混乱しました。また、『これでいいのかな?』という思いを持ちながら、お客様と一緒にやってきました。
1年間の経験を踏まえると、2年目からはいろんな工夫例や、『こういう環境なら、こういうやり方がいいのでは』という、新たな知恵などが生まれ始めてきました。アップデートされるような動きになってきたわけです。今は、リモートのマイナス面だけでなくプラス面にも関心を向けています」
――リモートでのプラス面はどのようなところですか?
桑原さん「人材育成の面では、研修受講者の声で多かったのが『同期の関係作り』の難しさでした。『入社して一度もリアルで会ったことない同期に、相談なんかできません』と。逆に言うと、それ以外のトレーニングは、対面の場合と遜色なく十分にオンラインでもできていたともいえます。
また、研修の意義は、学んだことを職場で実践して、よい結果につなげることです。しかし、従来の研修ではどうしても2~3日かけて一気に学ぶので、その後の実践は受講者に委ねられる、という課題がありました。それに対してオンラインなら、集める負荷が下がります。そのため、集合研修を1日ずつ数回に分け、その間に1か月程度の職場実践まで含めてデザインすることで、より実践力を高められる可能性が高いと考えています。
さらに、オンライントレーニングは、Z世代との相性がよいです。とくに、オンラインでは『フラットな学び』や『一人ひとりの参画意識』が高くなり、それがZ世代に対しては有効だと見ています。
一方で、Z世代は、自分自身の考えていることや思いを表に出すことを躊躇する傾向があります。集合研修で『みなさん、何かご意見ありますか』と聞くと、全員の前ではなかなか発言が出ません。しかし、『オンラインでチャットしてください』と言うと、バーッと発言が並んでいく。それは学習的には大きなメリットです。一人ひとりが参加する割合や頻度が集合研修以上に増えるので、全員がフラットに自由に意見を言い合いながら、学んでいくことができるのです」
――オンライン研修のほうが社員の本音を引き出しやすいのでしょうか?
桑原さん「オンラインの場合、目の前の空気というか、上下感がなくなるので、空間がフラットになりますね。たとえば、画面でいうと全員同じ面積ですよね。ZOOMなどがそうですが、見た目も25分の1の面積で均等で、フラットな環境に置かれやすい。そしてZ世代にとってチャットは、面と向かって話す以上に、やり慣れたツールで、本音を出しやすいのだと思います」
――Z世代が取引先やお客様とコミュニケーションするうえで、対面時とオンラインでの会話でのやりとりにギャップが出たりしないのでしょうか。
桑原さん「そこは、どうでしょう。お客様からの話で、オンラインと対面した時と印象が違ってしまうということは聞いたことはありませんね。
ただ、若手の営業は『オンライン営業のほうがやりやすい』という人が多い印象を受けます。やはり、緊張感が圧倒的に違うみたいです。たとえば、面と向かってお客様のところに行ったら、場合によっては大勢の人に囲まれてしまうでしょう。オンラインの場合はそういうことがなくて、やりやすさがあるようです。
もっとも、オンラインだけで人間関係作りはうまくいきません。私は立教大学でも講師をしていますが、1回目の授業は全員と対面で会ってその後はオンラインだったケースと、コロナ初年度で最初から最後までオンラインだったケースを比較すると、『全員で会ったクラス』のほうが受講生どうしのコミュニケーションが活発になり学びにもプラスに働きました。ですから、相手と一度会っておくというのは大きいわけです。
このあたりは、世代による慣れやニーズの違いもあるように感じます。リモートOJTなどをおこなう場合、上司とどれくらい世代差があるかによってリモートでの育成だけでも比較的スムーズに進む職場と、『会わない』とほぼ滞ってしまう職場とに分かれてしまうかもしれません」
<変わらなければならないのは「教える」上司と「教わる」部下の両方です! リクルートマネジメントソリューションズの桑原正義氏に聞く(後編)>に続きます。
(構成 牛田肇)
【プロフィール】
桑原 正義(くわはら・まさよし)
リクルートマネジメントソリューションズ
HRDサービス開発部 トレーニング開発グループ 主任研究員
1992年、株式会社人事測定研究所 (現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て2015年より現職。探究領域は、VUCA×Z世代の育成アップデート、「個を生かす」生成アプローチ。NPO法人青春基地(プロボノ)。立教大学経営学部BLP兼任講師。