落ちる株価、慌てる投資家! 「地政学リスク」にどう対応すればよいのか?(小田切尚登)

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   テロや戦争などから生じるリスクを地政学的リスクと呼ぶ。ロシアがウクライナに侵攻した現在、我々は地政学的リスクの真っ只中にある。

   日経平均株価は下がっている。2022年3月4日午後にこの原稿を書いているのだが、朝10時前にウクライナの原子力発電所がロシアによって砲撃を受けたという一報が入り、そこで株価がさらに下がってきた。

   昨日3月3日の日経平均株価の終値が2万6577円だったのが、3月4日午前(前場)は2万6020円で終えた。556円つまり半日で約2%以上の下落を記録したのだ。

  • 株価下落に茫然……(写真はイメージ)
    株価下落に茫然……(写真はイメージ)
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歴史に学ぶ 「その時!」株価は!?

   投資家はこういう場合にどのように対応すべきであろうか?

   とりあえず株を売っておくべきであろうか?

   あるいはそんなに遠くない将来に反発する可能性があるので、むしろ今は株の買い時なのだろうか?

   こういう場合は勝手にいろいろと空想しても始まらないので、今までの地政学的リスクに対して市場がどのように反応したかを調べてから作戦を立てるのが良いだろう。

   ここに良い資料がある。リットホルツ・ウェルス・マネジメント会長兼最高投資責任者のバリー・リットホルツ氏が「地政学は市場にどのように影響するか」という興味深い文章を書いているのだ。

参考リンク:「How Geopolitics Impacts Markets (1941~2021)」

   そこで彼は1941年の真珠湾攻撃から2021年の米軍アフガニスタン撤退までの22の地政学的イベントが米国の株価へどのように影響したかを分析している。その最初の6つのケースを以下、列挙しておこう。

   ここで株価というのは米国の代表的な株価指数であるS&P500を指す。

1941年12月7日   真珠湾攻撃
当日の動き      マイナス3.8%
最安値までの下落幅  マイナス19.8%
最安値までの日数   143日
回復に要した日数   307日

1950年6月25日   北朝鮮が韓国を攻撃
当日の動き      マイナス5.4%
最安値までの下落幅  マイナス12.9%
最安値までの日数   23日
回復に要した日数   82日

1956年10月23日  ハンガリー動乱
当日の動き      マイナス0.2%
最安値までの下落幅  マイナス0.8%
最安値までの日数   3日
回復に要した日数   4日

1956年10月29日  スエズ危機
当日の動き  プラス0.3%
最安値までの下落幅  マイナス19.8%
最安値までの日数   3日
回復に要した日数   4日

1962年10月16日   キューバ・ミサイル危機
当日の動き  マイナス0.3%
最安値までの下落幅  マイナス6.6%
最安値までの日数   8日
回復に要した日数   18日

1963年11月22日  ケネディ大統領暗殺
当日の動き  マイナス2.8%
最安値までの下落幅  マイナス2.8%
最安値までの日数   1日
回復に要した日数   1日

   リットホルツ氏が取り上げた22のケースでは、株価は当日に平均1.1%下落した。そして19.7日かかって最安値になり、最安値までの下落幅は4.8%だった。以前の株価に回復するのに43.2日かかっている。

   この中でアメリカにとって最大の事件はどれだったかといえば、1941年の真珠湾攻撃であることは間違いない。何しろアメリカが第2次世界大戦に参戦するきっかけになったのだから。しかし、真珠湾攻撃のようなケースでも一日の株価の下落幅は3.8%、最低までの下落幅は19.8%という程度であった。これくらいだと、たまにある程度の価格変動だといって良いだろう。

地政学リスクは思っているほど株価に影響しない

   それ以外の、たとえば今回のウクライナ問題と類似点のありそうなケースである1956年のハンガリー動乱の場合は1%も下がっていない。また、米ソ核戦争一歩手前までいった1962年のキューバ・ミサイル危機の場合でも、それほど大きく下落していない。

   これからいえるのは、地政学的な出来事は我々が想像するほどには株式市場に大きな影響は与えてこなかったということだ。

   これは地政学以外の事象の影響と比べてみると、よりはっきりと見えてくる。2000年のドットコムバブルの崩壊では米国の株価は25%近く、2008年の金融危機で50%弱も下がった。1929年の世界恐慌で、ダウ平均株価は何と約9割も下がった。それらに比べると地政学的な影響はたいしたことがないように思える。

   結局、戦争やテロは人々に強い心理的影響を与えるが、経済活動に対する影響はそれに比べると小さい、ということだろう。もちろんロシアやウクライナのような当事者にとってはそれどころではないわけだが、少なくとも海外で客観的に状況を見据えることが可能な立場にいるのであれば、ある程度我慢をしていれば遠くない将来に光が見えてくる場合が多い。少なくともこれまではそうであった。

   もちろん、今回のケースがそのような軽傷ですむかどうかは予断を許さない。ロシアとウクライナの戦いは長引きそうであり、投資家にとっても気が気でない。今後、場合によってはNATOが本格的に参戦して、第三次世界大戦になっていくというシナリオもあり得ない話ではない。

   ともあれ、我々は目の前の事象に追い立てられるのではなく、歴史を教訓にして中長期的視点を持って進んでいくべきだ。今のような時期こそ、パニックにならずに客観的な視点を維持することが大事である。今回はその発想法の一つの例を提示してみた次第である。

(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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