将来、デジタル通貨でドルに対抗?
一方、追い込まれたロシアには欧米諸国に報復する「奥の手」が残されていると警戒するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏のリポート「追い込まれるロシア、遂にSWIFT排除~どの範囲まで貿易取引は停止するか?~」(2月28日付)のなかで、「ロシアの中央銀行が為替介入できなくなり、ルーブル下落に拍車がかかるが、今後、ロシア側からの報復が怖い」として、こう指摘する。
「経済制裁は、G7がロシアを一方的に締め上げるニュアンスがあるが、実際はロシアだけではなくG7も同時に経済的打撃を被る。それを覚悟して、SWIFTからの締め出しを決定したのだろう」「こうした米国の強権発動は、一見、米国のドル覇権の威力を見せつけるものであるが、制裁されるロシアや制裁を懸念する中国などには、ドル決済から離れる強い動機を与える。中長期的には、米国の力を弱めることになるだろう」
「欧米」VS「中ロ」という世界経済の分断につながりかねない危険性があるというわけだ。また、実はSWIFTからの締め出しには「穴」があると、熊野氏は注意喚起する。その際、デジタル通貨がカギになるというのだ。
「そもそも、ドル決済停止がダメージを与えるのは、資金決済が銀行口座を通じて行われているから」「この懲罰的措置をかわすため、デジタル通貨を使い、国際決済機関の勘定を使用せずに、貿易取引相手が相互に支払いを完了させる方法がある」「ただし、今回の件では、そうした対応はできなさそうだ。仮に、ロシアの貿易事業者が暗号資産を使おうとしても、貿易取引を暗号資産で決済しようという契約にはなっていないからだ」
しかし、近い将来、ロシア・中国がドル覇権に屈しないために、デジタル・ルーブルやデジタル人民元を、安全保障の目的で流通させる可能性を残した。
ところで、ロシア側の「報復」とは何を意味するのか。熊野氏はこう指摘する。
「ロシアが報復措置として、レアメタル・レアアースの輸出停止を実施する可能性である。パラジウム、コバルト、ニッケル、白金などの鉱物資源である。日本では、2021年は半導体不足によって、自動車などの生産活動が落ち込んだ。今後、ロシアがレアメタルを禁輸すると、同様に日本の製造業は、生産ができなくなる品目が発生する」
すでに3月2日、原油価格は1バレル100ドルを突破した。熊野氏は、
「(原油価格の急上昇で)日本の素材産業への打撃は大きくなる。家計にも、数か月のタイムラグをおいて、値上げラッシュが起こるだろう。日本経済の前には、当面、大きな不確実性が横たわりそうだ」
と結んでいる。