ロシアによるウクライナへの侵攻を受けて、日本たばこ産業(JT)の株価が売られる展開が続いた。
JTはウクライナにたばこ製造工場を持っているほか、ロシアではたばこ販売のシェアトップとあって今後の業績への懸念が高まっているためだ。
「有力市場」ロシア、現地たばこ工場は操業休止も
2022年2月24日まで5営業日連続で終値が下がり続け、25日に軽く反発したものの、米欧がロシア金融機関の国際決済網からの排除で合意した週末を経て、28日には一時前週末終値比109円50銭(4.5%)安の2090円まで値を下げた。これは2021年7月以来、約7か月半ぶりの安値。5日連続下げ前の2月16日と比べ、28日の終値は244円50銭(10.3%)下げた。
背景には、ロシアのウクライナ侵攻がありそうだ。ロシアの侵攻を受けて、JTではウクライナ中部クレメンチュクの工場は操業を休止しており、再開の見通しは立っていない。従業員約900人のこの工場では、主にウクライナ国内向けの紙巻きたばこや日本向けの葉巻きたばこ「キャメル」などを生産している。なお、JTはロシアで、たばこ製造工場を5か所持つ。
現在、JTはたばこ販売について、禁煙が進む日本国内よりも海外市場に活路を求めて海外企業の買収に次ぐ買収を進めており、全体の売上高に占める比率は2021年12月期に国内24%に対し、海外は66%に及ぶ(ほかに、医薬や加工食品が10%程度)。
JTは国別の売上高を開示していないが、ロシアは従来から「有力市場」とされてきた。JTは「2021年12月期には海外たばこの売り上げ上位30市場のうち、29市場でシェアを伸ばした」と説明しており、ロシアも伸ばした国(市場)の1つだったと見られる。
しかし今後は、米欧日による経済制裁でロシア経済が混乱することで、直接的にたばこ販売に影響する可能性があるほか、ロシアルーブルの下落により、収益が目減りする恐れもある。こうしたことからJT株を持つことに投資家が不安を募らせているようだ。
6年ぶり増益「海外主要市場のシェア上昇」評価されたが...
もっとも、足元の業績は悪くない。
2月14日に発表された2021年12月期連結決算(国際会計基準)は、最終利益が前期比9.1%増の3384億円と6年ぶりの増益を記録した。売上高は11.1%増の2兆3248億円、営業利益は6.4%増の4990億円だった。
たばこの販売本数自体は伸び悩んでいるものの、主力銘柄の値上げによる増収効果があった。証券各社からも「海外では主要市場においてシェア上昇が続いている」(野村証券)などと評価する見方が目立った。
ただ、2022年12月期はたばこ事業(この期から公表セグメントでたばこ事業を国内と海外に分けず統一)の減収を見込んでいる。海外大手に比べて出遅れている加熱式たばこで攻勢をかけて減収ペースを緩めたいところだが、この面でもロシアの混乱が影響する可能性がある。
当面はロシアのウクライナ侵攻がJTの株価に影を落とすことは避けられそうにないようだ。(ジャーナリスト 済田経夫)