「円高・株安・原油高」のトリプルパンチが日本を襲う?
物価が上がれば人々は消費を控えるから、経済成長率も鈍化する。その比率を永濱氏はこう試算した。
「今後の原油先物価格が平均80ドル/バレル程度に落ち着くと仮定すれば、今年の経済成長率をマイナス0.14%ポイント程度押し下げるにとどまる。しかし(中略)平均90もしくは100ドル程度となれば、今年の経済成長率をそれぞれマイナス0.19%ポイント、マイナス0.23%ポイントも押し下げることになる」
ところで、ウクライナ情勢がさらに悪化して、今後1バレル=100ドル台をさらに超えたらどうなるのだろうか。
この疑問を考えるうえで、2008年に原油価格が史上最高値を付けた経験を参考に、今後の日本経済の行く末に懸念を表すのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
ちなみに、2008年の史上最高値とは、イスラエルがイランの核開発施設を急襲するという情報が流れ、ニューヨーク原油市場のWTI価格が一気に1バレル=147ドルにまで急上昇した「事件」のこと。今後、ウクライナ情勢の展開次第では、こんな突発的な事態が起こらないとはいえないだろう。
木内氏のリポート「ロシアのウクライナ侵攻本格化で日本経済に『円高・株安・原油高』のトリプルパンチ。GDP1.1%低下も」(2月25日付)の中では、情勢が急激に悪化した場合の日本経済への影響をこう述べる。
「まず原油高の経済への影響を起点に、その影響の予想がリスク回避傾向を強める金融市場で円高と株安をもたらす、との流れで考えてみよう」「WTI原油先物価格が、2008年についた史上最高値の1バレル140ドルまで上昇するとしよう。昨年につけたピークの80ドルを上回る部分が、ウクライナ情勢の影響を受けていると仮定すると、2月24日に97ドル程度の原油価格が140ドルまで上昇する場合には合計で75%程度の上昇となる」
2008年、原油価格が史上最高値を付けた時は、株価は高値から安値まで17%も下落した。また同時に、ドル円レートも15%上昇した。つまり、「円高・株安・原油高」のトリプルパンチが日本を襲ったのだ。
この時を参考にして、ウクライナ情勢によって原油価格が75%上昇、株価が17%下落、円は対ドルで15%上昇すると仮定した日本経済への影響について、木内氏はこう試算した。
「75%の原油価格はGDP(国内総生産)を0.23%押し下げ、17%の株価下落はGDPを0.19%押し下げ、15%の円高は、GDPを0.69%押し下げる。合計ではGDPが向こう1年程度に1.11%押し下げられる計算である」
このため、木内氏によると、せっかく今年4~6月期以降は感染リスクの低下とともにプラス成長に戻ることが見込まれているのだが、
「既往のエネルギー価格の高騰の悪影響に、上記のウクライナ情勢による『円高・株安・原油高』のトリプルパンチの影響が加わることで、その回復力はかなり削がれることになりそうだ」
と指摘している。