楽天グループのインターネット証券会社、楽天証券が2022年2月1日に発表した制度変更が利用者に波紋を広げている。
投資信託積み立てのポイント還元率を引き下げる内容だったため、ネット上では「改悪だ」との書き込みが相次いだ。楽天証券などを傘下に抱え、ポイント還元で顧客を拡大してきた楽天グループに何が起きているのか。
ポイント足がかりに、グループ内サービスへ誘導する戦略
今回のポイント還元制度の変更は、楽天グループのクレジットカード「楽天カード」で支払って投資信託を積み立てる場合の共通ポイント「楽天ポイント」への還元率について、現状の1%を2022年9月買付分から0.2%に引き下げるというもの。楽天証券が発表した数時間後には、競合するSBI証券が他社から乗り換えた顧客向けのキャンペーンを打ち出し、顧客争奪の熾烈さがうかがえる事態だった。
もっとも、楽天グループのポイント還元の「改悪」は初めてではない。主力事業の「楽天市場」でも2022年4月以降、ポイント付与の対象が消費税込み価格から、本体価格に変更される。10%程度の違いだが、ポイント増額キャンペーンでは影響が大きくなる。
2021年6月には、楽天カードで支払う電気やガス、水道の料金について、1%だったポイント還元率を0.2%に引き下げており、これで公共料金の支払いを他のクレジットカードに移した利用者もいた。
携帯電話会社やIT系企業は、それぞれのポイントプログラムを顧客囲い込みのツールとして活用している。その中でも楽天グループは、楽天市場を足がかりに各種金融サービスなどを自前で手掛け、利用に応じて楽天ポイントを還元することによって、「楽天エコシステム(経済圏)」を拡大してきた。
ポイントを大盤振る舞いして集めた顧客をグループ内の他のサービスにも誘導して、全体の収益力を高めようという戦略だ。
携帯電話事業の赤字の穴埋め迫られ?
だが、2020年4月に本格参入した携帯電話事業が誤算となったようだ。
自前で基地局などの通信インフラを抱える「第4の携帯電話会社」になったことで基地局整備に多額の費用を要し、2021年12月期の連結最終損益は1338億円の赤字に沈んだ。楽天グループとして過去最大で、最終赤字は3年連続となる。楽天市場などのインターネットサービス事業は、営業利益が倍増。金融事業も1割増だったが、携帯電話事業の赤字を補えなかった。
基地局の整備費に加え、自社設備がまだ整っていない地域でKDDIから回線を借りる費用もかさんだ。楽天グループとしては、携帯電話事業の2023年12月期中の黒字化を目指している。だが、携帯電話事業にいったん参入すると、継続的に一定水準の投資が必要となる。また、足元では第5世代通信システム「5G」関連の設備投資を迫られている。
資金の確保は必須で、グループ傘下の楽天銀行が株式上場の準備を始めたのも、こうした背景がありそうだ。
そんな中で、資金の流出を少しでも抑制するための対応の一つが、ポイント還元の縮小だろう。携帯電話事業は各社の競争が激しく、楽天グループの「楽天モバイル」の新規契約数の伸びは鈍化してきている。
しかし、ポイント還元の縮小は顧客離れの「負のスパイラル」を招く恐れもあり、楽天グループの成長が携帯電話事業に足をすくわれかねない状況に直面している。(ジャーナリスト 白井俊郎)