独占禁止法がソフトウェア産業とインターネット革命をもたらした
ひるがえって、現代。1980~1990年代にかけて市場を独占していた巨大テクノロジー企業に対して行われた、アメリカとヨーロッパの一連の独占禁止法の執行について、詳しく述べている。
アメリカ司法省はIBMとAT&Tを独占禁止法で提訴し、両社に対して分割を求めた。その後、同様の措置がマイクロソフトにも講じられた。
訴訟ではIBMに揺さぶりを続けた結果、ソフトウェアがハードウェアに付属するものではなく、独自の産業として確立されたのだった。したがって、アメリカのソフトウェア産業の隆盛は独占禁止法の賜物だともいえる。
従業員100万人を超える世界最大の巨大企業だったAT&Tが分割され、その結果、「インターネット革命が起きた」と書いている。
一方で、日本が「失われた30年」の低迷から抜け出せないのは、日本政府がAT&T分割のような思い切った政策を打ち出せず、日本電信電話公社を民営化してNTTを設立する程度の中途半端なものだったからだ、と見ている。
ハードウェアを中心とした統合システムの構築に重点が置かれ、独自のオンライン産業が生まれなかった。「日本のハイテク企業の大半がソフトウェア、パソコン、インターネット革命という好機を見逃していた」と批判する。
アメリカの反独占の動きは、新自由主義(ネオリベラリズム)の台頭によって、変化した。反独占のアメリカの法律は「深い冬眠」についてしまった、と嘆く。それがGAFAの巨大化につながった、と考えている。
最後に著者は、独占に歯止めをかけ分割させる行動計画を示しているので、紹介したい。
1 合併の規制
2 市場調査と集中排除
3 大型訴訟と巨大企業の分割
4 「競争の保護」という目標
5 独占利益の再分配
こうした主張をする学者が政権に入り、ダイナミックな変革を説く。アメリカの資本主義のたくましく、健全な一面であろう。
「巨大企業の呪い」
ティム・ウー著、秋山勝訳
朝日新聞出版
1540円(税込)