格差拡大、世界経済停滞の原因はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ、アマゾン)なのか。巨大グローバル企業による独占と寡占が進んだ結果、市場の競争原理と新規参入がはばまれ、イノベーションが妨げられたからだ――。
「巨大企業の呪い」(ティム・ウー著、秋山勝訳)朝日新聞出版
本書「巨大企業の呪い」(朝日新聞出版)は、日頃、GAFAの製品やサービスを享受している我々にとって、一見意表を突くような主張をしている。それはなぜなのか。
「ネット・ニュートラリティー(ネット中立性)」理論の提唱者である著者のティム・ウー氏が、その理由を歴史的に説明し、現状を打開する5つの方針を提言している。
ティム・ウー氏はコロンビア大学ロースクール教授を経て、現在国家経済会議(NEC)のテクノロジー・競争政策担当の米大統領特別補佐官を務める。
反独占の歴史は英国から始まった
GAFAについては、欧米で、個人データを独占している、市場を支配している、納税逃れをしている、などの批判が高まった。
これを受けてEU(欧州連合)では2020年6月、アップルが展開する2つのサービスが独占禁止法に違反している可能性があるとして、調査を開始。アメリカでもティム・ウー氏が政権入りしたことで、GAFA解体に向けた動きが出てきたと注目された。2020年10月には、アメリカ司法省は反トラスト法に違反しているとしてグーグルを連邦地裁に提訴、12月にはフェイスブックも同様の容疑で提訴された。
「独占」との闘いを長期的な視野でとらえているのが、本書の最大の特徴だ。独占禁止法が生まれた歴史から紐解いている。
英国ではエリザベス1世の時代、女王がトランプカードの製造・販売の独占権を侍従に授ける決定を下すなど、多くの独占特許状を出した。これに怒った市民が訴訟を起こし、いくつかを無効にさせた。反独占は英国から始まった。
アメリカの反独占の伝統は、1773年の「ボストン茶会事件」から始まるという。お茶の独占販売に反対する市民が実力行使におよび、やがて独立戦争へと発展した。
さらに19世紀末、アメリカで、私企業による独占に対抗する反トラスト法が制定された。その理念を広めた弁護士ルイス・ブランダイスは、モルガン財閥が336の鉄道会社を合併させようとすることに反対した。理由はこうだ。
「この鉄道カルテルはほかの会社を排除し、労働者を不当に扱い、投資家をあざむき、規模こそ巨大だが途方もないほど非効率的だ。その目的は、銀行と投機家の利益を満たすだけにすぎない」
ほかに、ナチス・ドイツと戦前の日本の財閥の経済政策についても検証している。
クルップ、シーメンスなどの主要企業は、「ドイツという国にとって兵器そのものであり、軍備増強と戦争遂行の双方から恩恵を得ていたと断言できるだろう」と書いている。
また、日本の財閥は複合企業体として、さまざまな産業分野にまたがって支配していた。戦後、日本を占領した連合国軍総司令部(GHQ)は、住友、三井、三菱、安田の四大財閥を筆頭に古河、大倉、野村などの財閥とあわせて十大財閥として指定、これらを解体した。
そして、戦後の日本経済の躍進と西ドイツの奇跡的な復興こそ、財閥解体と独占排除によってもたらされた証しだと主張する。