インターネットのセキュリティ支援大手、トレンドマイクロの株価が2022年2月18日の東京株式市場で一時、前日終値比480円(8.0%)安の5520円まで急落した。
前日取引終了後に発表した今年12月期連結決算の業績予想で、最終利益は前期比21.0%減の303億円を見込むと発表。人的投資がかさむほか、コロナ禍が落ち着いて企業や学校の「リモート需要」の伸びが鈍化しそうなことも背景にある。
最終利益の予想が市場予想平均(332億円)を下回ったこともあり、ネガティブサプライズとなって投資家の売りを集めた。2月24日の終値は、6020円だった。
自社株買いでも株価下落を止められず......
それでは業績予想の内容を確認しておこう。売上高は前期比9.7%増の2089億円、営業利益は3.8%減の420億円、経常利益は5.4%減の421億円。トレンドマイクロは、売上高の約6割が海外というグローバル企業。それゆえ円安は売上高の増加要因となる。そのほか、2021年末時点で契約を得ている額がやや大きかったことが売上高の増加見通しを後押しする。
ただ、売上高増を上回る勢いで費用が増える。増員継続による人件費、コロナ禍の緩和による出張やイベントの費用が主なものだ。また、トレンドマイクロは「これまで大きく伸びていたクラウド費用の増加は緩やかになると見込む」と説明しており、「リモート需要」の鈍化がじわりと収益に効いてくる見通しだ。
営業利益や経常利益に比べて最終利益の減益幅が大きいのは、2021年12月期に計上した関連会社の株式売却などに伴う特別利益の反動があるから。アナリストたちは2022年12月期の予想にその特別利益を織り込んでいたが、それでもさらにその予想平均を下回る減益予想をトレンドマイクロが立ててきたことに失望したわけだ。
業績予想と同時に、発行済み株式の0.57%にあたる80万株、50億円を上限に2月18日~3月31日に自社株買いを行うという株主還元策も発表したが、株価急落を止めるほどの効果はなかった。
人的投資に期待!
ここでトレンドマイクロという会社の概要をみておこう。創業者の一人は台湾出身のチャン・ミン・ジャン氏(67)で現在は代表取締役会長だ。1988年に米国で創業した後、本社を東京都渋谷区に置き、ビジネスの中心も日本市場に置いている。
インターネット経由の攻撃からパソコンを保護する「ウイルスバスター」などの個人・法人向けのセキュリティ対策商品を供給するほか、さまざまなセキュリティ支援を手がける。IT企業としては老舗の部類に入るのではないか。
株価は急落したが、必ずしも悲観論ばかりではない。SMBC日興証券は2月18日配信のリポートで、2021年12月期について「第2四半期(4~6月期)以降、落ち込んでいた北米の回復が続いていることは好印象」とし、2022年12月期について「(トレンドマイクロの業績予想で)費用増が大きく織り込まれているが、計画ほどには増加せず、通期で営業減益にならないのではないか」と指摘した。
人的投資は顧客拡大に向けた先行投資の側面があり、その効果が見えてくれば株価上昇につながる可能性もありそうだ。
(ジャーナリスト 済田経夫)