ロシアのプーチン大統領が2022年2月24日、ウクライナに対する軍事作戦を開始した。ロシアの複数の国営通信社が「ロシア軍は、ウクライナ軍の施設や飛行場を高性能の兵器によって無力化、制空権を制圧した」と報じた。
ウクライナ情勢緊迫化によって、世界経済はどうなるのか? 多くのエコノミストの「緊急リポート」を読み解くと、欧米の経済制裁の「限界」を見越したプーチン大統領のしたたかさが浮き彫りになるが......。
長年、経済制裁の備えを進めてきたロシア
2022年2月24日、ウクライナ東部への軍事作戦実施を表明したロシアのプーチン大統領だが、果たしてウクライナ全土に進攻するつもりなのだろうか――。
ロシアの動向に対し、ロシアが取りうる3つのシナリオと、それぞれのリスクを述べて分析するのが、大和総研ロンドンリサーチセンター・シニアエコノミストの菅野泰夫氏だ(ロンドン駐在)。
菅野氏のリポート「ロシアはウクライナに全面侵攻するのか?急転直下の展開を見せるウクライナ情勢」(2月22日付)の中で、「ロシアはウクライナの征服を望んでいるわけではなく、その主権を損ない、西側への傾斜を食い止めたいだけ」として、3つのシナリオを分かりやすいチャート(=図表1)に提示した。
長距離砲やロケット、巡航ミサイルを利用すれば、首都キエフ陥落には3日もかからないが、全面侵攻した場合のロシア側のデメリットをこう説明する。
「歴史的に反ロシア感情の強いキエフ周辺を中心に、反対勢力によるゲリラ戦が展開される可能性が高い。これら反対勢力と戦いながら、広大なウクライナの制圧を続けるには相当のコストがかかる」
「(2014年の)クリミア併合時には莫大な財政負担に苦しんだ経験があり、さらに広大なウクライナ全土を占領・併合するメリットはほぼゼロ」「(ウクライナ東部の)ドンバス地方のみを併合した場合でも、ロシア政府の追加の想定予算は約200億ドル(中略)既に同地方の公務員給与や年金、インフラといった財政負担をしているロシアがさらなる支出を受け入れる可能性は低い」
ただし、菅野氏は「西側諸国は制裁で対抗するものの効果は薄い」と指摘する。それは、「プーチン大統領は長年にわたってこれら考えられうる制裁への準備を進めてきたため」だ。そのため、プーチン大統領が実際に全面進軍に踏み切るか、今後の一挙一動が注目されるという。
したたかなプーチン大統領が、西側諸国からの最悪の制裁を想定して準備してきたものとは何か。