「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
市場に「残留」する企業と「退出」を選ぶ企業
2月21日発売の「週刊ダイヤモンド」(2022年2月26日号)は、「東証再編」を特集している。4月に迫った東京証券取引所の市場再編を契機に、上場廃止ラッシュが起きようとしているという。なんとか市場に「残留」しようとする企業と、「退出」を選ぶ企業。それぞれの思惑を探っている。
最上位となるプライム市場の上場維持基準は、現在の東証1部よりも厳しくなった。基準を満たしていないのに、改善計画書を出すことで一時的に残留を許された「猶予企業」は、296社に上る。
最も厳しい基準は、「流通株式時価総額」だ。プライムでは100億円以上が求められるが、改善計画書には非現実的な数値が並んでいるという。編集部の試算による上場廃止危険度ランキングを掲載している。
ワースト1位になったのは、東海地方を地盤に結婚式場の運営を手掛ける、ブラス。流通時価総額は13.97億円。21年7月期の売上高は93億円、純損益は1.6億円の黒字だったが、改善計画書では期限である27年7月期に売上高を198億円、純利益を11.9億円に伸ばすことを必達目標にしている。だが、このV字回復想定を、「ばら色過ぎる」と見ている。
より基準が緩いスタンダード市場でも事情は同じだ。上場廃止ランキングのワースト15社は必達時価総額10億円の半分にも満たない。
改善計画書に非現実的な数値が並ぶのは、なぜなのか。流通時価総額を上げる手段は以下の3つだ。
1 業績を伸ばして株価を上げる
2 PER(株価収益率)など市場からの評価を高め株価を上げる
3 流通株式比率を上げる
1「業績を伸ばす」の中から、高すぎる売上高目標を設定しているランキングを掲載している。1位になったのは、東京・新宿で温浴施設「テルマー湯」を手掛けるエコナックホールディングスだ。25年までに売上高を5倍超にするという強気の計画に、疑問を呈している。
このほか、「純利益目標高すぎ」「営業利益目標高すぎ」「PER目標高すぎ」「株式売却にかかる日数長すぎ」企業ランキングも掲載している。
市場関係者が覆面座談会で、「経営者が『どうしてもプライムに行きたい』と言えば、数字合わせの計画書を作成しなければならないのは分かる」「上場か廃止か、東証再編は企業に決断促す『踏み絵』」と発言している。
パート3では、「上場廃止のすすめ」を説く。非上場化して監査報酬や株主対応にともなうコスト減などのメリットのほか、社員の給料を上げる道もあるそうだ。
企業が非上場化して株主への分配一辺倒ではなくなり、配当総額の半分をグループ企業に配った場合の「年収上昇可能金額」を編集部が試算した。その結果、年収を200万円以上も上げられる企業が、松井証券、日本オラクル、任天堂など108社に上った。
日本企業の株価上昇は米国ほど期待できないと、投資家の眼は海外に向きつつある。東証再編が企業価値の向上につながるのか、行方を注視したい。
コロナ禍で医療保険への加入が急伸
「週刊東洋経済」(2022年2月26日号)の特集は、「保険見直しの鉄則」。コロナ禍で医療保険への加入が急伸した。本当に必要な保険とは何か。商品の見直しから生保各社の経営、営業のあり方まで取り上げている。
最初に、2021年に金融庁が改訂した保険会社向けの監督指針について説明している。民間の生命保険は、あくまで「公的保険(制度)を補完する」ものだということだ。
「高額療養費制度」によって、自己負担額は減る。仮に、100万円の医療費がかかっても、自己負担額は15万円など本来の半分程度の水準に抑えることができる。公的保障で不足する分を民間の医療保険で補うというスタンスで十分だという。
一方、コロナ禍で自宅療養であっても入院扱いとして保険金が出たことで、民間の医療保険の恩恵を感じた人も少なくない。医療保険、がん、引受基準緩和形、就業不能、認知症保険という5大商品について、良商品をランキングしている。
医療保険で1位になったのは、住友生命傘下のメディケア生命「新メディフィットA(エース)」だ。目新しさはないが、どの保障項目をとっても、他社に見劣りしないのが特徴だ。保険料の安さが支持されているようだ。
がん保険でトップになったのは、チューリッヒ生命「終身ガン治療保険プレミアムZ」。割安な保険料ながら、自由診療の対象となる抗がん剤治療にも手厚いことが支持されているという。
病気やケガによる長期療養で働けなくなったときに備えるのが、就業不能保険だ。1位はSBI生命「働く人のたより」だ。保険料は30代で月2000円前後の安さが特徴。会社員や公務員の健康保険では傷病手当金が支給されるほか、給料の3分の2が最長1年半支給される。
いま、保険金額が少額の「少額短期保険(小短)」が拡大している。さまざまな業種から新規参入が相次いでいる。コロナ保険が若者に人気だという。
しかし、感染者数が拡大し、第一生命が手掛けた第一スマートは、21年9月にコロナ保険の販売を一時停止。当初の保険料は3か月分で980円だったが、現在は3840円だ。スマホ決済のPayPayもアプリ上でコロナ保険を販売している。
規制緩和を各社が期待しているが、最終赤字の会社が全体の4割を占めた。そうした業者が経営破綻した場合、契約者を保護するセーフティーネットがないことも、規制緩和を難しくしている。
パート2では、「大量採用・大量脱落」の保険営業職員が、コロナによって構造転換しつつあることを指摘している。2020年度は、退職者数が採用者数を各社とも大幅に上回った。コロナ禍で実働が減った分を新人採用で埋めようとしたが、職域営業(企業訪問)は狭められ、新規顧客の開拓は厳しくなっている。
ほかに、「オンラインで契約が成立するのは、営業所で月に1件ぐらい」「10年後に生保レディーは必要とされなくなるのではないかと思う」「今は個人情報保護や新型コロナで職域営業は難しい」など、生保レディーが覆面座談会で本音を披露している。
65歳までは年収の10%強を資産形成に
「週刊エコノミスト」(2022年3月1日号)の特集は、「損しない!資産形成&年金仕事」。年金制度が今年4月から変わるのに合わせ、資産を守り増やすポイントを解説している。
年金受給開始年齢の上限が現行の70歳から75歳に引き上げられる。受給開始を65歳から最大75歳にすると最大8割増になるのだ。もう1つの改正は「働き損」が減ることだ。60~64歳の受給上限が47万円に引き上げられるので、働いたことによって逆に年金がカットされる事態が減る。
野尻哲史氏(合同会社フィンウェル研究所代表)が、最終年収の「6割」確保する年金・勤労収入・資産の生かし方を解説している。
30歳から65歳までは「積み立てながら運用する時代」で、年収の10%強を資産形成に充てる。65歳から80歳までは「使いながら運用する時代」。80歳から100歳までは「使うだけの時代」とする。
20年以上の運用実績のある投資信託のうち、8割程度が平均収益率で3%以上になっている。年収の10%を積み立て投資に回すことで、65歳までに4000万円の目標を達成できるという。
「悪いインフレ」を克服する株・外貨預金・ETF(上場投資信託)の選び方については、長内智氏(大和総研金融調査部主任研究員、ファイナンシャルプランナー)が説明している。年齢による「リスク許容度」の違いを考えて資産運用方式を選ぶことが大切だ。
若年層は、今後の投資期間が長く、給与所得も増えることが見込まれるため、現預金よりもリスクは高くなるがリターンも期待できる株式や投資信託、J-REIT(不動産投資信託)の保有割合を高めるのが基本。高齢層は現預金を確保したうえで、リスクの低い「債券型投資信託」や分散投資する「バランス型投資信託」を保有することが有効だという。
このほかに70歳就業に向け、60歳から働く環境を整備することや、「越境転職」により適職を発見する「学び直し」のコツについての記事も。「いったん経験をリセットするつもりで新たな知識を取り入れる」というリスキリングの重要性を、藤井薫氏(リクルートHR統括編集長)は説いている。
(渡辺淳悦)