シニア男性の再就職「出身大学の難易度」で決まる?驚きの調査...女性研究者に聞いた「プライド捨てましょう!」(2)

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   最近、職場で「妖精さん」という言葉で若い人から揶揄されることも多くなったシニア男性。自分を変えていかないと、定年後の再就職は難しくなりそうだ。

   そんななか、高学歴の中高年男性の仕事への意識を調査したリポートが発表された。興味深いのは、何十年たっても卒業した大学の難易度(入試偏差値)にとらわれている「哀しいオトコの性(さが)」だ。

   出身大学の偏差値を上位から下位まで4段階に分け、それぞれの偏差値ごとに調べると、再就職の難しさや課題が見えてくるという。女性研究者に詳しく話を聞いた。

  • シニア世代の再就職事情が話題に(写真はイメージ)
    シニア世代の再就職事情が話題に(写真はイメージ)
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なぜマンション管理人が人気なのか?

   <シニア男性の再就職「出身大学の難易度」で決まる?驚きの調査...女性研究者に聞いた「プライド捨てましょう!」(1)>の続きです。

――なぜ、出身大学の難易度の差によって、シニア男性の意識に違いがあると分かるのですか。

小島明子さん「実は以前、今回の調査の女性版にあたる高学歴中高年女性を対象として、難易度の差を調べたことがあります。『女性の活躍推進』と言いながら、お金をかけて高い教育を受けた女性が活躍しないともったいないよね、という問題意識から実情はどうなのかと。そこで、難易度の違いを調べたら、見事に差が出ました。
2015年11月に発表した『東京圏で暮らす高学歴女性の働き方調査』がその研究です。これを見ると、難易度の高い大学出身の女性ほど管理職に昇進すること、晩婚であること、パワーカップルが多いこと、居住地域も東京23区が多く、最初は港区に住み、子どもが生まれると多摩に移動するケースが多いこと、などがわかりました。
しかし、この調査の反応はよくなかったです。女性たちから共感を得るどころか炎上状態になり、ショックを受けました。分けられることへの反発があったのでしょう。話は戻りますが、この時の知見が、今回の男性版調査では生かされています」

――そういった経緯があって、男性版を始めたわけですか。今回の調査によると、難易度の高い大学出身者ほど再就職の際のミスマッチが多い傾向にあるのはどういう理由かららでしょうか。

小島さん「プライドが高いのだと思います。保有するスキル(=図表1参照)を見ると、あらゆる分野でほかの人を上回っています。とくに、語学力や企画提案力、ロジカルシンキングに優れています。また、再就職先の希望する仕事内容も事務系が多く、経営企画やコンサルティング、教育などです。
しかし、事務職は再就職では『幻の仕事』と言われます。1人の求人に100人の応募があります。年収の希望も高いです。ハロワークで『年収の希望は?』と聞かれ、『現役時代は1000万円だから、600万円はもらいたい』と言って、求人票の金額を見せられて、『ええっ!』と驚くそうです。
保育や介護の仕事ならニーズはたくさんあるのですが、彼らの希望は大企業が多いのです。面白いことにマンション管理人が人気。マンション管理会社は、三井不動産、東急不動産など大手不動産の子会社が多いですから、『いちおう大企業の傘下で安定している』というのが理由だそうです」
再就職でどの道を進むか(写真はイメージ)
再就職でどの道を進むか(写真はイメージ)

――中小企業には行きたがらないのでしょうか。

小島さん「中小企業はマルチタスクが求められます。人が少ないし、お金もないから1人で人事、経理、営業などを全部やってほしい。ところが、中小企業の社長さんの話だと、勝手に仕事の一部を『外注』してしまう人がいて困る、と言います。それほど、難易度が高い大学出身者と中小企業の意識が違うと言えるのかもしれません。プライドが邪魔をして自分を変えることが難しい、新しいことに挑戦することにモジモジすることも、彼らの特徴です」

――しかし、難易度が高い人ほど「職業生活」と「私生活」の満足度が高まる、とあります。よくテレビドラマにある「貧しいけれど愛のある生活が幸せ」とは真逆のリアリズム(?)です。受験勉強をたくさんすれば、公私ともに幸せになれるという印象を受けます。

小島さん「私生活の面でみると、難易度の高い人ほど既婚率が高いというデータもありました。難易度が一番低い人の既婚率が73.3%ですが、難易度の一番高い人は82.3%で9ポイントも違います。結婚した時期はバブル期ですから、『3高』(高学歴・高収入・高身長の男性)という言葉があった時代で、さぞかし女性にもてたことでしょう。
仕事の面でいうと、彼らの多くが管理職に昇進しています。昇進すれば年収も高くなるし、仕事の裁量権も大きくなり、やりたいことができます。やりがいを持って仕事に打ち込めます」

「10歳以上年下の友だちをつくろう」

――そのうえ、難易度が高い人ほど健康的である、という結果にもちょっと意外感があります。野菜や海藻類、きのこ類などヘルシーな食事をとる割合が高いし、BMI(体格指数)も標準の人が一番多くなっています(=図表3、4参照)。

小島さん「難易度が高い大学の出身者は、小さい頃から一生懸命に勉強して、ストイックな人が多いと思われます。スポーツをする割合も高くなっています。私がむしろ心配するのは、難易度が低い人のほうです。BMIの数値データをみると、標準体重の人の割合が少なく、肥満と激やせの人の割合が高くて両極端です。これはバランスのよくない食事をとる人が多いからでしょう。
難易度が高い人が野菜や海藻類、きのこ類などヘルシーな副菜を多くとっているのは、おそらく奥さんの手料理のおかげです。実は、彼らの奧さんは専業主婦が一番多い傾向がありました」

――難易度が高い人の妻に専業主婦が多いというのは意外ですね。女性版の調査の時は、パワーカップルが多いとありました。妻も難易度が高い大学出身者で、バリキャリが多いような印象を受けたので。

小島さん「妻の雇用形態をみると、正規雇用の割合がほかの人たちより高いのです。つまり、パートが少なくて、バリキャリか専業主婦かのどちらかということですね。もう1つの特徴はフリーランスが多いこと。おそらく、高いスキルを持っている奥さんが多く、自宅でその能力を生かせる仕事をしている可能性が高いです」
会社の中で一番ストレスがすくないのは社長?(写真はイメージ)
会社の中で一番ストレスがすくないのは社長?(写真はイメージ)

――なるほど。もう1つ疑問なのは、会社の中では偉くなればなるほど、ストレスが減り、睡眠もたっぷりとる人が増えることです(図表7、8参照)。社長、重役のストレスの度合いは主任クラスの約半分。「いい睡眠」を取っている割合も1.5倍です。上に行くほど責任も重くなるはずで、一般社員からしたら、納得できない、なんてことも...。

小島さん「私も個人的には、夜も眠れないほど従業員のことを心配する経営者であってほしいと思います。しかし、現実には『いつもストレスがある』と答えた社長は3.1%しかいません。ストレスに強い図太い人じゃないと偉くなれないのでしょう。ハードワーク(激務)に対する許容度を聞くと、上に行く人ほど高くなりますから。
もう1つの理由は、偉い人ほど仕事の裁量が大きくなり、それだけやりがいと満足感が高くなり、仕事が楽しくて仕方がないのかもしれません。夜もストレスなくたっぷり眠れるのではないかとも思います」

――このリポートのまとめとして、再就職を目指す「オジサン」たちに伝えたいことはありますか。

小島さん「自分をよく知ってほしいです。そういうこともあって私は、出身大学の難易度というキーワードを考えてみました。オジサンの『3ない』をご存じでしょうか。居場所がない・友だちがいない・趣味がない、の3つです。とくに、強調したいのは10歳以上年下の友だちをつくってほしいです。
年をとると、男性は怒りっぽくなります。若い人と付き合っていると、新しいことを教えてもらい、刺激になり、人間の幅が広がります。謙虚にもなります。自分を変えて、変化にも対応できるようにしましょう」

――示唆に富むお話を、ありがとうございました。

   なお、調査は、2019年3月に、民間企業かつ東京都内の民間企業に勤め、東京圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)にある4年制、大学院を卒業した45歳から64歳の中高年男性を対象とした。

   1794人から回答を得た(内訳は45~49歳432人、50~54歳447人、55~59歳454人、60~64歳461人)。出身大学の難易度区分は代々木ゼミナールの大学入試偏差値のデータを使い、(A)偏差値52未満(431人)、(B)偏差値52以上~58未満(433人)、(C)偏差値58以上~63未満(473人)、(D)偏差値63以上(457人)にグループ分けした。

(福田和郎)


【プロフィール】
小島明子(こじま・あきこ)

日本総合研究所創発戦略センター・スペシャリスト
経済社会システム総合研究所客員主任研究員

環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点から企業を評価するかたわら、企業向けにESGの取り組みや、女性活躍と働き方改革推進状況の診断も行っている。また、中高年男性や女性、氷河期人材の働き方などに関する調査研究にも従事している。
著書に『女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる』(経営書院)、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著、金融財政事情研究会)など。2022年3月2日出版予定の近著に『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)。

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