「10歳以上年下の友だちをつくろう」
――そのうえ、難易度が高い人ほど健康的である、という結果にもちょっと意外感があります。野菜や海藻類、きのこ類などヘルシーな食事をとる割合が高いし、BMI(体格指数)も標準の人が一番多くなっています(=図表3、4参照)。
小島さん「難易度が高い大学の出身者は、小さい頃から一生懸命に勉強して、ストイックな人が多いと思われます。スポーツをする割合も高くなっています。私がむしろ心配するのは、難易度が低い人のほうです。BMIの数値データをみると、標準体重の人の割合が少なく、肥満と激やせの人の割合が高くて両極端です。これはバランスのよくない食事をとる人が多いからでしょう。
難易度が高い人が野菜や海藻類、きのこ類などヘルシーな副菜を多くとっているのは、おそらく奥さんの手料理のおかげです。実は、彼らの奧さんは専業主婦が一番多い傾向がありました」
――難易度が高い人の妻に専業主婦が多いというのは意外ですね。女性版の調査の時は、パワーカップルが多いとありました。妻も難易度が高い大学出身者で、バリキャリが多いような印象を受けたので。
小島さん「妻の雇用形態をみると、正規雇用の割合がほかの人たちより高いのです。つまり、パートが少なくて、バリキャリか専業主婦かのどちらかということですね。もう1つの特徴はフリーランスが多いこと。おそらく、高いスキルを持っている奥さんが多く、自宅でその能力を生かせる仕事をしている可能性が高いです」
――なるほど。もう1つ疑問なのは、会社の中では偉くなればなるほど、ストレスが減り、睡眠もたっぷりとる人が増えることです(図表7、8参照)。社長、重役のストレスの度合いは主任クラスの約半分。「いい睡眠」を取っている割合も1.5倍です。上に行くほど責任も重くなるはずで、一般社員からしたら、納得できない、なんてことも...。
小島さん「私も個人的には、夜も眠れないほど従業員のことを心配する経営者であってほしいと思います。しかし、現実には『いつもストレスがある』と答えた社長は3.1%しかいません。ストレスに強い図太い人じゃないと偉くなれないのでしょう。ハードワーク(激務)に対する許容度を聞くと、上に行く人ほど高くなりますから。
もう1つの理由は、偉い人ほど仕事の裁量が大きくなり、それだけやりがいと満足感が高くなり、仕事が楽しくて仕方がないのかもしれません。夜もストレスなくたっぷり眠れるのではないかとも思います」
――このリポートのまとめとして、再就職を目指す「オジサン」たちに伝えたいことはありますか。
小島さん「自分をよく知ってほしいです。そういうこともあって私は、出身大学の難易度というキーワードを考えてみました。オジサンの『3ない』をご存じでしょうか。居場所がない・友だちがいない・趣味がない、の3つです。とくに、強調したいのは10歳以上年下の友だちをつくってほしいです。
年をとると、男性は怒りっぽくなります。若い人と付き合っていると、新しいことを教えてもらい、刺激になり、人間の幅が広がります。謙虚にもなります。自分を変えて、変化にも対応できるようにしましょう」
――示唆に富むお話を、ありがとうございました。
なお、調査は、2019年3月に、民間企業かつ東京都内の民間企業に勤め、東京圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)にある4年制、大学院を卒業した45歳から64歳の中高年男性を対象とした。
1794人から回答を得た(内訳は45~49歳432人、50~54歳447人、55~59歳454人、60~64歳461人)。出身大学の難易度区分は代々木ゼミナールの大学入試偏差値のデータを使い、(A)偏差値52未満(431人)、(B)偏差値52以上~58未満(433人)、(C)偏差値58以上~63未満(473人)、(D)偏差値63以上(457人)にグループ分けした。
(福田和郎)
【プロフィール】
小島明子(こじま・あきこ)
日本総合研究所創発戦略センター・スペシャリスト
経済社会システム総合研究所客員主任研究員
環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点から企業を評価するかたわら、企業向けにESGの取り組みや、女性活躍と働き方改革推進状況の診断も行っている。また、中高年男性や女性、氷河期人材の働き方などに関する調査研究にも従事している。
著書に『女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる』(経営書院)、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著、金融財政事情研究会)など。2022年3月2日出版予定の近著に『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)。