最近、職場で「妖精さん」という言葉で若い人から揶揄されることも多くなったシニア男性。自分を変えていかないと、定年後の再就職は難しくなりそうだ。
そんななか、高学歴の中高年男性の仕事への意識を調査したリポートが発表された。興味深いのは、何十年たっても卒業した大学の難易度(入試偏差値)にとらわれている「哀しいオトコの性(さが)」だ。
出身大学の偏差値を上位から下位まで4段階に分け、それぞれの偏差値ごとに調べると、再就職の難しさや課題が見えてくるという。女性研究者に詳しく話を聞いた。
大学難易度が高い人ほど再就職でミスマッチが
この調査「東京圏で働く高学歴中高年男性の意識と生活実態に関するアンケート調査結果」(2022年2月8日付)をまとめたのは、日本総合研究所研究員の小島明子さんだ。
民間企業に働き、かつ東京都内のオフィスに勤務し、東京圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)に所在する4年制大学、大学院を卒業した1794人から働く意識と生活実態を詳しく聞いた。
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、この報告(要約版)の元になった詳細な報告書(2019年8月29日付)を小島明子さんに提供してもらった。
報告書では、中高年男性に出身大学・大学院の実名を聞き、(A)偏差値52未満、(B)偏差値52以上~58未満、(C)偏差値58以上~63未満、(D)偏差値63以上の4段階にグループ分けし、それぞれの特徴を詳しく分析している。
それによると、約半数が定年後も仕事を続けたいと考えているが、とくに難易度が高い男性(Dグループ)ほど、スキルのミスマッチなどを理由に定年後の再就職に不安を持つ傾向がみられる。
このDグループの男性たちに、現在保有しているスキルを聞くと、あくまで自己申告だが、ほとんどの分野でほかのグループの人たちより高い能力を示しているのだ(図表1参照)。いったい、なぜこの人たちが再就職を目指す際、苦労しがちになるのだろうか。この人たちのスキルは、語学、調査・研究、コンサルティング、経営企画、教育などに秀でている(図表2参照)。
一方で、中小企業やNPOなどに再就職してもよいと考える男性は全体の72%に上るのに、この難易度が最も高いグループ(Dグループ)では59%にまで下がる。半面、大企業を望む人は、全体では28%なのに、難易度が最も高いグループでは41%に達する。どうやら、この「大企業志向」に課題がありそうだ。
「仕事」も「私生活」も満足度が高い高偏差値の人
さらに、難易度が高くなるほど、「健康偏差値」が高くなることも明らかになった。高学歴な男性ほど、野菜や海藻類・きのこ類を多く食べる。毎日2回以上これらを食べる人の割合は、難易度が最も高い人は低い人の1.6倍だ(図表3参照)。また、運動・スポーツにも熱心で、BMI(体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)の基準でみると、肥満の人の割合は、難易度が最も高い人は低い人の0.8倍だ(図表4参照)。
また、この人たちは公私ともに「幸せ」であることもわかった。たとえば「職業生活」の満足度を聞くと、「強くそう思う」と答えた人の割合は、難易度が最も高い人は低い人の1.5倍。「私生活」の満足度を聞くと、「強くそう思う」と「そう思う」を合わせて答えた人の割合は、難易度が最も高い人は低い人の1.5倍だった。出身大学の難易度がなぜ数十年後の「幸せ」にまで影響を与えるのだろうか(図表5、6参照)。このあと、調査をまとめた小島さんに聞いてみたいと思う。
さらに興味深いことに、これは大学難易度とは関係ないが、会社内でも役職の上位にいるか、下位にいるかが、「健康」と「幸せ」に影響を与えていることもわかった。たとえば、ストレスを感じる度合いを聞くと、「まったくない」と答えた人の割合は社長や重役クラスでは33.2%もいるのに、係長・主任クラスでは17.8%しかいない。役職が高い人ほど「ストレス」が少ないのだ(図表7参照)。
また、睡眠状況をみても、「睡眠をとれている」と答えた人の割合は社長や重役クラスでは42.9%もいるのに、係長・主任クラスでは29.2%しかいない。役職が高い人ほどたっぷり「いい睡眠」をとっているわけだ(図表8参照)。
かつて、植木等が「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」と歌って、ヒラほど楽だったのは昔話になったのだろうか。
「オジサン」と十把一からげにしてはいけない
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、こうした数々の疑問点を、調査をまとめた日本総合研究所研究員の小島明子さんに聞いた。
――中高年男性の仕事観や生活実態を、出身大学の難易度から分析するという切り口が非常にユニークです。この発想はどこから得たのですか。
小島明子さん「今、シニア男性は若い人から『妖精さん』と揶揄されています。きっちり出社するけれど、いつの間にか席を離れ、気がつくと会社からいなくなってしまう。姿が見えないから『妖精』というわけです。働いていないように見える中高年男性の代名詞になりました。
実は、企業もシニア男性には困っています。バブル時代の採用で大人数だから役職についていない人が多い。しかも『70歳まで会社にいたい』という。年下の上司には使いづらい方々です。この世代の生産性を上げ、働くモチベーションを高めるにはどうしたらよいのか。人事は真剣に悩んでいます。
とくに、高学歴の中高年の活性化がカギになります。ただ、『妖精さん』とか『オジサン』と十把一からげにはできません。シニア男性は多様性に富んでいるのです。出身大学の難易度の違いによっても意識に差があり、彼らへの理解を深めるために分析方法の1つとして使いました」
どうして出身大学の難易度の差によって、再就職の際のミスマッチが多いなどの課題があるのだろうか――。このあとも引き続き、調査をまとめた小島明子さんに話を聞いていく。<シニア男性の再就職「出身大学の難易度」で決まる?驚きの調査...女性研究者に聞いた「プライド捨てましょう!」(2)>に続きます。
(福田和郎)
【プロフィール】
小島明子(こじま・あきこ)
日本総合研究所創発戦略センター・スペシャリスト
経済社会システム総合研究所客員主任研究員
環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点から企業を評価するかたわら、企業向けにESGの取り組みや、女性活躍と働き方改革推進状況の診断も行っている。また、中高年男性や女性、氷河期人材の働き方などに関する調査研究にも従事している。
著書に『女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる』(経営書院)、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著、金融財政事情研究会)など。2022年3月2日出版予定の近著に『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)。