最新2022年「借りて住みたい街」に見るユーザー意識の変化《後編》 コロナの影響あったか?「近畿圏、中部圏、九州圏」(中山登志朗)

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首都圏と首都圏以外の状況が大きく異なる理由は?

   このように、首都圏では賃貸ユーザーの郊外居住意向が強まっているのに対し、近畿圏、中部圏、九州圏(福岡県)ではいずれも市街地中心部での職住近接を望む意向が維持されていることがわかりました。コロナ前の2019年には、4圏域ともほぼ同様な傾向にあったのですが、コロナによって首都圏だけなぜこのような「郊外化」が発生したのでしょうか。

   それは首都圏と首都圏以外とで置かれている状況に、比較的大きな違いがあることによるものと考えられます。

   まず、新型コロナウィルスの感染者数の多くは首都圏および東京都に集中しており、急速な感染爆発を受けて東京に本社を置く企業の多くは、国および東京都からの要請もあってテレワークの促進・継続策を実施しています。

   東京都でのテレワーク実施率は2022年1月発表時点で56.4%、大阪府では明確な調査資料はありませんが?本?産性本部が公表した資料によれば20%を少し超える程度とされていますから、テレワーク実施率に違いがあることは明らかです。コロナ禍で実際に働き方が大きく変わった首都圏に対して、近畿圏ほかではコロナ前から働き方はほとんど変わっていないというのが、住み替えに対する考え方にも反映されているようです。

   また、テレワークに関しては、企業の業種および従業員規模によっても、実施率・定着率に違いがあります。たとえば、情報・通信業や金融・保険業では比較的高く、また従業員規模が大きい企業ほどテレワークの実施率が高いことがいくつかの調査で判明しています。このような企業の多くが東京に本社を置いていることもまた、テレワークの実施率の違いに影響を与えています。

   続いて、都市圏との規模の違いが挙げられます。

   首都圏の場合は、都心から電車で1時間程度郊外方面に延伸しても、生活圏として大きな差異はなく、利便性が極端に劣る、ということはありません。一方で、近畿圏、中部圏などでは1時間程度郊外方面に延伸すると、生活圏そのものが変わってしまうという点も見逃せません。

   さらに、首都圏の場合は、都心と郊外では住宅の賃料もしくは物件価格に比較的大きな差があるものです。これに対し、首都圏以外の場合は、市街地中心部の賃料および物件価格が相対的に低いため格差が小さく、ゆえに郊外方面に住み替える経済的メリットが大きくないという点も挙げられます。

   これらの要因が重なって、首都圏と首都圏以外の圏域での住宅、および、住まい方に対する感覚が大きく違ってきているのだと考えられます。

   コロナ禍によって「ニューノーマル」な生活に変化するべきなのか。それとも、コロナ前に戻ることをイメージして、現在の生活を続けるべきなのかが問われていると言えるでしょう。

(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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