政府も前年度2倍超の約800億予算で後押し
量子コンピューターのすさまじい計算能力は、さまざまな分野で活用可能だ。人口知能(AI)は自ら学習を重ねて「知能」を高めるから、計算速度のアップはAIの能力を飛躍的に高める。
たとえば、創薬で成分の有効性の見極め、金融のリスク管理、さらにエネルギー分野では次世代バッテリー、新素材の開発、再生可能エネルギーの効率化など、複雑な計算が必要なもので力を発揮しそうだ。もちろん、他の先端技術同様、軍事にも応用が見込まれる。
民間では、独フォルクスワーゲン(VW)がタクシーのような自動車を使った都市交通サービスの研究を進め、欧州のエアバスは航空機の故障の原因などを特定する際の分析への活用を研究しているという。
日本ではとくに量子暗号で、東芝が21年8月、膨大なゲノム情報をネットワーク経由で安全に送る実験に世界で初めて成功。また、22年1月には量子暗号通信を金融取引で使う検証実験に成功するなど、世界の先端を走っている。
こうした民間の力を結集しようと、東芝、NEC、トヨタ自動車、NTT、日立製作所、富士通、みずほフィナンシャルグループ、東京海上ホールディングスなど大手24社は2021年9月、「量子技術による新産業創出協議会」を設立。量子技術の動向や応用できる分野についての調査などに動いている。
政府も国として量子技術の開発を後押しする姿勢を明確にしている。
「量子技術イノベーション戦略」について、有識者会議で検討し、今年(22年)6月をめどに改定版を決める方針だ。これまで大学などでの基礎的な研究が中心だった技術の実用化の加速をめざし、産業育成に力を入れる考えだ。
2022年度予算案に、量子暗号通信網の構築をめざし、人工衛星を介した量子暗号通信の研究開発などの事業費27.5億円を盛り込むなど、量子技術関連予算を前年度の2倍超にあたる約800億円に積み増した。