デジタル通貨「ディエム」撤退...浮き上がらせた「メタ」の失速

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   米IT大手GAFAの一角を占めるメタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)は、実現を目指していたデジタル通貨「ディエム」から撤退する。

   2019年に「リブラ」の名称で発表されたデジタル通貨構想は、各国の通貨発行権を脅かしかねないとして、主要国が軒並み懸念を示していた。メタの主力SNSであるフェイスブックは会員数が初めて減少に転じており、同社の成長に陰りが見えてきた。

  • 若年層のフェイスブック離れも進む(写真はイメージ)
    若年層のフェイスブック離れも進む(写真はイメージ)
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国を越えて使える「通貨」を標榜

   メタが主導している運営団体のディエム協会は2022年1月31日、「規制当局との対話を通じて、プロジェクトを進められないと明らかになった」との声明とともに、ディエムに関する技術や知的財産を売却し、発行計画から撤退すると発表した。売却先は米カリフォルニア州にあるシルバーゲート銀行で、売却額は1億8200万ドル(約210億円)。同行はデジタル通貨を発行する計画を掲げている。

   リブラ構想が発表された当初は、米ドルなど複数の通貨を裏付けとすることで、価格を安定させる予定だった。技術的には暗号資産(仮想通貨)の仕組みを使いながら、国家が発行する通貨と同等の信頼性を持たせる。それにより、ビットコインのような投機的な側面がある暗号資産とは異なり、国を越えて使える「通貨」になりえる存在を目指していた。

   たとえば、銀行口座を持っていない人でもリブラを使えば、貯蓄や国際送金をスマートフォンだけでできるようになる。銀行口座を持てないが、スマホは持っている人は途上国、新興国を中心に数億人単位で存在する。付随して新たなビジネスも誕生するだろう。世界的にクレジットカードを展開するビザやマスターカードがリブラ構想への参画を当初表明したのも、その可能性に期待したからだった。

各国政府と中央銀行、金融システムへの悪影響を懸念

   だが、構想が発表されるやいなや、各国の政府や中央銀行から、金融システムへの悪影響を懸念する声が相次いだ。

   マネーロンダリング(資金洗浄)に悪用される恐れや、過去に個人情報流出が起きた旧フェイスブックのガバナンス(企業統治)の不備が理由に挙げられた。しかし本音は、各国の主権である通貨発行権を奪われ、通貨を巡って各国が巨大IT企業に従属することになるのを恐れたからだ。通貨をディエムに交換する動きが急速に進めば、その通貨の価値を大幅に変動させかねない。

   運営団体側は裏付けとする対象を複数の通貨から米ドルなど単一通貨に絞り、名称も変更して当局の理解を得ようとしたが、断念に追い込まれた。皮肉なことにディエム構想は、各国に対して、法定通貨のデジタル化である中央銀行デジタル通貨(CBDC)を促す結果となった。いまや、各国の中央銀行が研究を進めたり、実証実験を始めたりしている。

   リブラ構想をぶち上げた頃の旧フェイスブックの飛ぶ鳥を落とす勢いは、メタになった現在は失速している。若年層のフェイスブック離れで会員数は減少しており、インターネット上のプライバシーに関する意識が高まって、利用者の好みに合わせた広告を出しにくくなった。SNSの少年少女への心理的悪影響を認識しながら、利益優先で対応を怠ったなどとする元社員の内部告発も影を落としている。

   社名を変更してまで新たな事業領域であるメタバース(仮想空間の中でさまざまな活動をできるようになる技術)に乗り出すが、収益に貢献するまでは年月がかかりそうだ。ディエム撤退は、メタの「終わりの始まり」のフラグなのだろうか。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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