各国政府と中央銀行、金融システムへの悪影響を懸念
だが、構想が発表されるやいなや、各国の政府や中央銀行から、金融システムへの悪影響を懸念する声が相次いだ。
マネーロンダリング(資金洗浄)に悪用される恐れや、過去に個人情報流出が起きた旧フェイスブックのガバナンス(企業統治)の不備が理由に挙げられた。しかし本音は、各国の主権である通貨発行権を奪われ、通貨を巡って各国が巨大IT企業に従属することになるのを恐れたからだ。通貨をディエムに交換する動きが急速に進めば、その通貨の価値を大幅に変動させかねない。
運営団体側は裏付けとする対象を複数の通貨から米ドルなど単一通貨に絞り、名称も変更して当局の理解を得ようとしたが、断念に追い込まれた。皮肉なことにディエム構想は、各国に対して、法定通貨のデジタル化である中央銀行デジタル通貨(CBDC)を促す結果となった。いまや、各国の中央銀行が研究を進めたり、実証実験を始めたりしている。
リブラ構想をぶち上げた頃の旧フェイスブックの飛ぶ鳥を落とす勢いは、メタになった現在は失速している。若年層のフェイスブック離れで会員数は減少しており、インターネット上のプライバシーに関する意識が高まって、利用者の好みに合わせた広告を出しにくくなった。SNSの少年少女への心理的悪影響を認識しながら、利益優先で対応を怠ったなどとする元社員の内部告発も影を落としている。
社名を変更してまで新たな事業領域であるメタバース(仮想空間の中でさまざまな活動をできるようになる技術)に乗り出すが、収益に貢献するまでは年月がかかりそうだ。ディエム撤退は、メタの「終わりの始まり」のフラグなのだろうか。(ジャーナリスト 白井俊郎)