世界で加速する「脱炭素経営」 日本を元気にするビジネスチャンスの可能性は? CDP Worldwide-Japanジャパンディレクターの森澤充世さんに聞く

提供:RX Japan

CDP「Aリスト」企業には、優遇金利与えられる動きも

――現在の脱炭素、脱炭素経営を取り巻く環境を教えてください。

森澤さん「2015年の『パリ協定』では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度未満(できるだけ1.5度未満)に抑えるという内容でしたが、ここ最近は『1.5度目標』がトレンドです。たとえば、環境イニチアチブの『Science Based Targets(SBT=科学的根拠に基づく目標)イニシアチブ』による認定基準は1.5度重視。これまで『2度目標』で目標を定めていた企業は、見直しが迫られています。いちはやく対応した日本企業もありますが、多くは変えなければならない状況です。場合によっては『中期経営計画』を変更する動きもあるほどです」

――でも、変えなければ世界の動きについていけませんし、それこそCDPの「Aリスト」がとれないことにもつながります。

森澤さん「そういうことです。こうした変化の時代のなか、パラダイムシフトを起こしていくには、やはりトップダウンで推し進めることが大事だと思います。
   関連する話として、私たちが毎年おこなう『CDP 2021 Aリスト企業アワード』には、できるだけトップに登壇してほしい、とお声がけしています。なぜか。質問書への回答の取りまとめは担当部門が取り組むにせよ、その内容をトップがどれくらい理解しているか、私たちは注目しているからです。そして、すばらしいと思うのは、連続してAリストをとる企業のトップは、次第に自分の言葉で語れるようになってくることです。すると、課題意識を抱えたトップが自ら気づき、主導して、脱炭素を踏まえた経営戦略として落とし込みやすくなるのです。
   もちろん、脱炭素経営の推進は、投資家の評価にもかかわります。このところ日本でも、銀行がCDPのAリスト取得企業に対して、優遇金利を与える動きが進んでいます」

――世界が1.5目標で進むなか、サプライチェーンの一翼を担う中小企業にも「脱炭素経営」は求められます。

森澤さん「スマートフォンメーカーなどは、サプライヤー(部品の供給元)に対して、100%再生可能エネルギー(再エネ100%)で製造することを求めていますね。ということは、サプライヤーの立場からすると、再エネ100%に対応しなければ取引ができない、ということが言えそうですね。サプライチェーン全体での脱炭素(CO2排出量の削減)の動きは広まってきているので、ほとんどの企業は再エネを使う方向に進まざるを得ないと思います。いろんな企業と取引するために、もっと言うと競争のなかで生き残るためにも、脱炭素の取り組みが必須。事業を進めるうえで前提となる、脱炭素を踏まえた経営戦略にもとづく『脱炭素経営』は不可欠だと思います」
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――日本での再エネ活用はもっと広まっていきそうでしょうか。

森澤さん「日本で再エネ調達の需要は高まっていますので、課題は供給がどう変わっていくかだと思います。率直に言えば、価格は安いほうがよい。海外では再エネの方が安いものの、日本はまだ高いのが現状です。技術革新なども踏まえて、この状況が変わっていくことに期待しています。
   一方で、日本にはさまざまな再生可能エネルギーを利用できる可能性がある、と私は思います。たとえば、世界有数の火山国である日本は、地熱資源が豊富です。なんとか利用できないか、期待が大きい分野です。島国の日本は洋上風力も向いているでしょう。バイオマス(動植物などから生まれた生物資源)もそうです。木質バイオマスなどは、間伐材(不要となる木材)を利用します。海外から安いバイオマスを輸入するだけではなく、森林国でもある日本の特性を生かした資源の活用方法もあると思います」

――技術革新への期待は大きいのですね。

森澤さん「日本の特性を生かした再エネ活用は、地域ぐるみで取り組めると思います。私が描くビジョンに、『中小企業や地域などとの連携による、サステナブルな社会構築』があります。これは、再エネ導入に向けて、その地域にあった戦略を自治体が立てる。それに対して、企業や銀行も一体となって取り組むことで、地域の発展につなげていくというものです。成功例が出れば、国内ではもちろん、世界中の国や地域でも展開できるとともに、大きなビジネスチャンスを秘めていると思います」

――ありがとうございました。

   企業の「脱炭素経営」のヒントとなるソリューションが一堂に会するイベントが、国内最大規模の脱炭素経営に特化した専門展「脱炭素経営EXPO」だ。「脱炭素経営EXPO 春展」が2022年3月16日~18日、東京ビッグサイト(東展示場)で開催する。今回は、共同出展を含め、約120社が出展する見込みだ。
   脱炭素の潮流や先進事例などを取り上げる講演やセミナーも実施。森澤さんも「特別講演」に登壇して、「脱炭素経営の世界の潮流」について詳しく話す。



【プロフィール】
森澤 充世(もりさわ・みちよ)

一般社団法人CDP Worldwide-Japan ジャパンディレクター
PRIシグナトリ―リレーション ジャパンヘッド

シティバンクなどで金融機関間決済リスク削減業務に従事したあと、2006年CDPの世界的拡大にともない、日本担当としてCDPに参加する。2010年PRIの日本ネットワーク創設にあたり、日本の責任者として参加する。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程終了、博士(環境学)。環境省、経済産業省、金融庁の委員、ジャパンタイムズESGコンソーシアム座長、日経新聞脱炭素委員会委員。


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