コカ・コーラグループが日本で独自の進化を遂げている。
2019年に自社ブランドとして世界初のアルコール飲料である缶酎ハイ「檸檬堂(れもんどう)」を全国で発売。2022年2月には、同ブランドのノンアルコール飲料を市場に投入する。
世界で展開するコカ・コーラグループにとって、日本は巨大なマーケティングリサーチの舞台となりつつある。
健康志向の高まりで炭酸飲料は「逆風」
米国ジョージア州アトランタに本社を構え、印象的な赤いロゴをひっさげて「飲料業界の巨人」として世界に君臨するコカ・コーラ。日本には進駐軍と共に本格的に上陸し、米国を象徴するブランドの代表格となった。
米コカ・コーラの日本法人である日本コカ・コーラは、製品開発やマーケティング、宣伝のほかに原液の製造を行い、製品の製造販売は地域ごとにフランチャイズ契約を結ぶ「ボトラー」と呼ばれる企業が担うシステムだ。日本の清涼飲料水市場では最大手で、2位のサントリーを引き離している。
そのコカ・コーラ初の缶酎ハイである檸檬堂は、2018年5月に九州地区限定で試験的に発売され、19年10月に全国で本格的に販売を始めた。当初は「定番レモン」(アルコール度数5%)、「塩レモン」(同7%)、「はちみつレモン」(同3%)の3種類で、後に「鬼レモン」(同9%)も加わった。
先行発売された九州では好評を博し、缶酎ハイのカテゴリーでトップの売り上げを記録したこともあったという。
清涼飲料水では圧倒的なコカ・コーラが、なぜアルコール飲料、なかでも缶酎ハイに参入したのか――。要因の一つは、主力ブランドであるコカ・コーラへの逆風だ。日本に限らず、先進国を中心に健康志向が高まり、糖分を加えた炭酸飲料は消費者に敬遠されつつある。コカ・コーラグループも「爽健美茶」といった茶飲料のブランドを投入してきたが、日本の清涼飲料水市場は成熟期を迎えており、他メーカーとの競争が激しい。
国内ボトラー最大手のコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスは、2021年12月期まで3年連続で連結最終赤字を見込んでいる。
世界で増える自宅での飲酒機会
営業面の理由もある。日本市場で争うライバルは、サントリーのほかにアサヒやキリンといったアルコール飲料を主力として清涼飲料水も手掛けるメーカーばかり。コンビニエンスストアや量販店は、メーカーがアルコール飲料と清涼飲料水の両方を取り扱うことに慣れている。また、アルコール飲料の中でも、缶酎ハイは数少ない成長分野であり、清涼飲料水で培ったさまざまなノウハウを生かしやすいという側面もある。
檸檬堂は商品ラインアップや宣伝戦略が消費者のハートをつかみ、競合品より数十円高い価格設定ながらもヒット商品に。今年2月に全国発売する「よわない檸檬堂」は、アルコール度数0.00%のノンアルコール飲料であり、これも市場が拡大しているカテゴリーだ。
日本での檸檬堂の成功を踏まえたのか、コカ・コーラグループは20年9月、アルコール入り炭酸飲料「ハードセルツァー」の世界展開を開始。南米を皮切りに米国、オーストラリア、欧州など既に20か国以上で販売されており、日本でも21年9月に関西で先行発売された。コロナ禍が長引いて自宅で飲酒する機会は世界的に増えており、こうした需要に対応した。
アルコール飲料にまで手を広げた「巨人」コカ・コーラにとって、日本は単なる一市場を超えた存在であるようだ。(ジャーナリスト 済田経夫)