日産自動車と三菱自動車、仏ルノーの3社連合が、電気自動車(EV)など電動車の開発に2026年度までの5年間で計230億ユーロ(約3兆円)を投資し、30年までに新型EVを計35車種投入する方針を打ち出した。
2021年1月27日、3社のトップが1年半ぶりにそろってオンラインで会見、発表した。
EV をめぐっては、トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)など内外メーカーが開発投資の拡大や販売目標の引き上げなどを表明するなど、競争が加速している。日仏3社連合は車台や部品の共通化を進めて開発費を抑え、世界の大ライバルに対抗する考えだ。
日産の全固体電池の開発が「頼みの綱」
発表によると、3社の全車種の70%を26年までに共通の車台にする。30年度までに投入するEV35車種のうち約9割は、計5種類の共通車台を使う。小型車向けの車台はルノーが開発、生産する。
なかでも技術的にカギを握るのが次世代の「全固体電池」だ。J-CASTニュース 会社ウォッチが「米テスラを追い越せるか!? 日産EV巻き返しへ全力 次世代「全固体電池」の実用化急ぐ」(2021年12月12日付)で詳報したように、日産は電動化のため技術開発投資や設備投資に今後5年間で約2兆円を充てると表明済みで、その目玉が全固体電池だ。
ちなみに、トヨタも2021年末、電池だけで2兆円、EV全体で4兆円の投資を打ち出している(J-CASTニュース 会社ウォッチ2021年12月31日付「トヨタEVシフト 『本気度』をアピールも350万台目標に世界はさらなる上積みを求めるかも......」を参照)
ルノーのスナール会長はEVの3社連携について、電池技術は「日産が開発する全固体電池が頼り」(朝日新聞2022年1月29日付朝刊のインタビュー記事)と述べている。日産は全固体電池の2028年度の量産化という目標を掲げており、今回の3社連合の目標の達成は、日産の電池開発にかかっているといっても過言ではない。
加速する世界のEV「内輪もめをしている余裕はない」
電池開発の行方は日産の努力を注視するしかないが、とにもかくにも、3社が共同で目標を打ち出せるまでになったのは、3社には明るい話題に違いない。3社連合の実権を握っていたカルロス・ゴーン被告の逮捕、失脚、海外逃亡をはさみ、フランス政府の圧力を背にしたルノーの日産への影響拡大の動きと日産の反発などで経営が混乱した時期もあった。
2010年に世界初の本格的な量産EV「リーフ」を発売するなど、かつてEVでは世界で先行していた日産も、世界のEV化が加速し、各メーカーが力を入れ、テスラを筆頭に新興メーカーも台頭するなか、内輪もめをしている余裕などない。3社は結束を固めることが競争上、不可欠と判断したわけだ。
日産のEVとしては、小型車の代表である「マーチ」(欧州名「マイクラ」)の動向に関心が集まっている。今回、3社連合は小型車向けの共通車台をルノーが開発、生産するとした。マイクラを、共通車台をもとにEV化。欧州で2020年代半ばに発売して、最大400キロメートルの航続距離を実現するという。この400キロの航続距離は、現行の日産リーフの457キロ(電池容量は62キロワット時)と並ぶ性能になる。
ただ、日本でのマーチとしての展開は未定だ。日産の小型車で最もコンパクトなマーチは、欧州では2017年に5代目マイクラが登場しているものの、日本国内のマーチは2010年登場の4代目からタイでの生産となり、日本に輸入されているが、モデルチェンジもできない状態が続き、トヨタ「ヤリス」、ホンダ「フィット」などライバルに大きく後れを取っている。
欧州で次期マイクラをEV専用モデルとするなら、国内の次期マーチもEVとなるのが順当なところだが、HVなどのニーズも根強い国内マーケットの動向をどう読むかにかかってくる。
いずれにせよ、かつての日産の看板車でもあったマーチがEVとして輝きを取り戻せるか。航続距離に加え、充電時間、価格などEVとしての総合力が問われることになる。(ジャーナリスト 済田経夫)