「前川孝雄の『上司力トレーニング』~リモートワークで働きがいある職場を創る」では、リモートワーク下での「支援型マネジメント」について説明してきました。
前回までをおさらいすると、第1のポイント:部下の仕事の「責任の明確化」、第2のポイント:部下の「仕事の具体化」、第3のポイント:上司の「反応の意識化」を取り上げてきました。
今回は、リモートワーク下で「支援型マネジメント」を進めるための第4のポイント、「ITツールの習熟化」を解説します。
コロナ禍以降、遠隔での上司・部下間やチーム内での報・連・相(報告・連絡・相談)や会議には、パソコンやタブレット端末を活用したITツールの利用が不可欠になりました。したがって、これらに習熟しておかなければ上司の仕事ができません。
そこで、ITツールを職場で円滑に利用する上での上司の心得、習熟のポイントを押さえていきましょう。
リモートで生じがちなコミュニケーションロス
上司:「(少々苛立ちながら)いつまで待っても、先日の商談の結果報告がないじゃないか!」
部下:「(驚きながら)えっ! 課長、それは、もう3日前にチャットで報告済みですが...」
上司:「えっ、そうなのか! ...しかし、そらならそうと、きちんとそのことを連絡してもらわないと困るな!」
部下:「あ?...はい...(その連絡のツールがチャットなのに、ちゃんとチェックしてくれないと仕事にならないなぁ...)」
皆さんの職場では、こんなコミュニケーションロスは起きていませんか?
これまでのリアル・コミュニケーションでは、日々対面での報・連・相や、会議、面談、書類の回覧などで、随時必要な情報交換を行ってきました。しかし、リモートワークでは多様なITツールを利用しますから、それらをいかに混乱なく円滑に活用するか、ルールづくりが必要です。
ツールの習熟には、若手を頼る
準備の第一段階は、上司自身がZoom、Chatwork、Teams、Webex、Slackなど主なITツールに習熟し、その特性を理解することです。これは書籍などで自習し、セミナー受講も有効ですが、自ら使って慣れることです。また、この分野はデジタルネイティブな若手ほど得意な傾向があります。臆せず部下や後輩にツールの使い方を訊き、習いましょう。
テクニカルスキルで、上司が優位に立つことにこだわる必要はありません。部下が得意なことには素直に頼るのも、「上司力」の一つです。部下の強みを活かすことに通じますから。ただし、表向きは笑顔で教えてくれたとしても、内心では「このくらい自分でマスターしてくださいよ」とうんざりしている部下も少なくありません。一度学んだことは復習を重ねて早々に身につけましょう。
また、ITツールはどんどんバージョンアップしていきますから、基本を習った後も最新情報や使い方にはアンテナを張っておきましょう。とくにIT通の部下がいれば、いつも善意に頼るのではなく、チームの中の役割として情報のシェアを促し、柔軟に取り入れることが賢明です。
各ツールに相応しい役割を見極める
準備の第二段階は、どのやりとりをどのツールで行うのが効果的か、各ツールに相応しい役割を見極めながら職場での使い分けのルールを定めることです。
各ツールの役割を整理する一つの方法例として、図を参考にしてください。縦軸は上がフォーマルで、下がインフォーマルな情報。横軸は左がリアルタイムで、右がタイムラグはあってもよい情報の、4象限に区分したものです。
【左上】フォーマルでリアルタイムが望まれる内容はWEBオンラインの会議や面談で、またより緊急性が高い内容は電話で、双方向のコミュニケーションをしっかり図ります。
【右上】確実な情報伝達が必要な内容、また情報量が多い内容などで、若干のタイムラグが許されるものは、メールや映像・動画などで確実に漏れなく伝えます。
【左下】仕事上の軽い相談や、インフォーマルな情報交換など、メンバー間でのちょっとした連絡を手軽に、早めに行いたい時は、チャットが便利でしょう。
【右下】社内の仲間意識やチームワークの向上には、社内SNS上にテーマ別の自由に参加できる会議室を設けたり、社内サークルをつくり趣味の情報交換を促進するのも効果的です。
次回の《後編》では、さらにITツール利用のルール化や、ツール習熟化への心構えを解説していきます。
※マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力~『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。