総務省が発表した住民基本台帳に基づく2021年の人口移動報告で、東京23区が初めて、転出者が転入者を上回る「転出超過」になったことがわかった。
東京都全体では転入者が5000人超上回ったが、比較可能な2014年以降では最少だった。新型コロナウイルス禍でテレワークが広がったことが大きな理由とみられる。東京一極集中の流れが今後、緩和に向かうかに注目が集まっている。
東京都、暦年ベースで26年ぶりの人口減
東京23区では、転出者が38万2人に対し、転入者は36万5174人で、転出者の方が1万4828人多かった。東京都全体では、転出者が41万4734人、転入者は42万167人で、差し引き5433人の転入超過だった。
だが、コロナ禍が起きる前の2019年の転入超過は8万2982人、18年は7万9844人にのぼり、東京への人の流入に急ブレーキがかかったことがわかる。転入者が減り、転出者が増えたためだ。
こうした状況の中、東京都によれば、22年1月時点の都の推計人口は1398万8129人で、前年より4万8592人減少。暦年ベースで26年ぶりに人口減少に陥った。
東京から転出する人が増えているのは、コロナ禍を機に多くの人がテレワークを始め、出社回数が減ったことが背景にある。
「毎日出勤するわけではないので、わざわざ家賃が高くて窮屈な都内に住む必要がなくなった。また、都内の小さな家では仕事部屋が確保できず、大きな家に移るため東京を離れる人も多い」(不動産関係者)とされる。
そのうえ、IT業界などでは、完全なリモート勤務ができる人も多いうえ、「国内であればどこで勤務してもいい」という新しい勤務スタイルを導入し始めた企業もあり、地方に移住する人も増えつつある。
ある程度は出社が必要で、地方移住までは...
ただ、こうした動きが東京一極集中を解消することにつながるかとなると、否定的な見方が多い。最大の理由は、東京から転出する人の新たな居住地は神奈川や埼玉、千葉といった「東京圏」に集中しているからだ。
2021年のデータでは、転出先の5割超がこの3県で占められた。多くの人がある程度は出社しなければいけないので、地方移住まではなかなか踏み切れないのが実態で、業界関係者の多くは「一極集中の流れが変わったとまでは言えない」と評価している。
また、コロナ禍以前から、若い世代の都心志向が強まっていたが、「通勤時の感染予防のため、できれば自転車通勤できるぐらい近くに住みたいとして、都心志向はさらに高まっている」(別の関係者)とも言われる。
テレワークを経験した結果、通勤時間の無意味さを改めて実感した人も多いのだろう。多くの企業が職場を都心に構えている限り、都心志向は続くとの見方は多く、「コロナ禍が収まれば、再び東京集中が強まるのではないか」との見方さえある。
だが、地方移住の相談機関にはコロナ禍以降、問い合わせが急増している。「地方移住に対する関心は着実に強まっている」との声も強い。コロナ禍を境に、一極集中への何かしらの変化が生じる可能性も否定できない。(ジャーナリスト 白井俊郎)