「お子さんのクラスで、新型コロナウイルスの陽性反応が出ました」
冬休みが明けてから、上記のような「Pooltest Positiv!(プールテスト陽性!)」というメールが検査室から送られてくる頻度が急増し、各家庭を震撼させています。
ドイツ北西部ノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)の小学生は現在、毎週2回のPCR検査を受けています。これはクラス全員分の検体をまとめてテストにかけ、全員が陰性か、誰か1人でも陽性がいるかをふるいにかけるための検査――通称「プールテスト」と呼ばれています。
息子と席を並べる級友が陽性だったという報告を受ける日々は、どこかで誰かが感染している未知の何かだった頃の新型コロナウイルスとは全く違うインパクトを持って私たちの生活に影を落としています。
それもそのはず、ドイツの1日当たりの新型コロナ新規感染者報告数は、2022年1月末、20万人を突破しました。
私たちができる感染予防は、手洗いやマスク着用などの基本的な衛生管理、そして「ワクチン接種」と言われています。しかし、ドイツ政府がワクチン義務化をめぐる議論を進める中、市民はワクチン肯定派と否定派に大きく二分されています。
恋人も仕事もワクチン未接種者同士で...
ドイツでは2月4日時点で、新型コロナワクチンの1回目を接種した人が75.9%、2回目完了が74.2%、3回目のブースター接種を完了した人が53.6%と、7割を超えてからの摂取率が伸び悩んでいます。
恋愛・婚活マッチングサイト「Gleichklang」が行った、新型コロナワクチンの接種・未接種についての意識調査によると、ワクチンを接種した人のうち72.5%が「将来のパートナーがワクチンを接種することを重視する」と回答。逆に、ワクチン接種を拒否している人の68.6%が「パートナーにも政府のコロナ対策に批判的な考えを持つ」ことを求めているそうです。
つまり、一般的によくある見た目や学歴、趣味と同様、ワクチン接種の有無もパートナー選びの決め手になる時代となったのです。
そこに登場したのが、新型コロナワクチン未接種者のためのマッチングサイト。求人サイト「Impffrei.work」や、恋人やパートナーを探す「IMPFFREI;LOVE」、旅行サイト「impffrei reisen」などが、2021年夏頃から次々に誕生しています。
3月16日以降にワクチン接種(または回復証明)が義務付けられる医療関係の求人も「Impffrei.work」には出ています。今後、義務化を無視して未接種者を採用する病院や介護施設が出てくるのではないかという心配、ワクチンの効果についてフェイクニュースを引用しているとの指摘もあります。
現在ドイツでは、2回以上のワクチン接種証明か回復証明がないと、小売店でお買い物することもできません。高まる社会的圧力とストレスに、仕事も恋も同じ考えを持つ人とつながりたいと思うのは、ある意味で当然の流れかもしれません。
市民によるデモは、参加者数も規模も拡大中
前述のように、2022年3月中旬から医療関係者など特定の職業に就く人に対するワクチン接種の義務化が始まります。そして、ワクチンの義務化を一般市民へとさらに拡大するかどうかは目下、議論が進められているところです。
ワクチン義務化や政府による感染症対策に反対するデモは、毎週のようにドイツ各地で起こっており、ここデュッセルドルフでもその規模はどんどん拡大しています。
デモ行進をしている人々の主張は、しかし一枚板ではないようです。感染症対策のしわ寄せを受けて倒産や失業の危機を感じている人、国家のあり方や個人の権利を守りたい人など、ワクチン反対! という一言では表せない反発や怒りが、雨の日も風の日も長蛇の列を作って街中を練り歩いています。
コロナ禍の世界をどのように見ているか、どのように行動したいと思っているかは、一つ屋根の下に暮らす家族やパートナーとの間でさえも同じとは限りません。そして、そのことが家庭に大きな試練をもたらしているケースも少なくありません。
ワクチンを接種していない人たちは同じく未接種の相手としか会わず、仕事仲間も未接種の人ばかりという環境に閉じこもる世界。効果的な感染予防策が何かを模索する中で、ワクチンを接種していない人を社会から締め出すような政策が続けば、分断はますます進んでいく可能性があります。
ワクチン未接種の人が、「自分のことを二流市民のように感じる」とインタビューで答えているのをテレビで見たとき、これは、私自身が外国で生活している時に感じたことのあるものと似ているのかもしれないと思いました。
統一後の東ドイツ市民が、移民系の市民が、同性愛者が、ありとあらゆるマイノリティーが社会の片隅で感じてきた居心地の悪さや不信感。その構図がまた繰り返されてしまうのでしょうか。それが怒りや嫌悪に変わり、暴力となって爆発しないことを願いながら、
「みなさんには、他人の目で世界を見ることを忘れないでほしい」
という、アンゲラ・メルケル氏が退任式で、政治家としての最後の場で言った言葉を思い出しました。
(高橋萌)