市民によるデモは、参加者数も規模も拡大中
前述のように、2022年3月中旬から医療関係者など特定の職業に就く人に対するワクチン接種の義務化が始まります。そして、ワクチンの義務化を一般市民へとさらに拡大するかどうかは目下、議論が進められているところです。
ワクチン義務化や政府による感染症対策に反対するデモは、毎週のようにドイツ各地で起こっており、ここデュッセルドルフでもその規模はどんどん拡大しています。
デモ行進をしている人々の主張は、しかし一枚板ではないようです。感染症対策のしわ寄せを受けて倒産や失業の危機を感じている人、国家のあり方や個人の権利を守りたい人など、ワクチン反対! という一言では表せない反発や怒りが、雨の日も風の日も長蛇の列を作って街中を練り歩いています。
コロナ禍の世界をどのように見ているか、どのように行動したいと思っているかは、一つ屋根の下に暮らす家族やパートナーとの間でさえも同じとは限りません。そして、そのことが家庭に大きな試練をもたらしているケースも少なくありません。
ワクチンを接種していない人たちは同じく未接種の相手としか会わず、仕事仲間も未接種の人ばかりという環境に閉じこもる世界。効果的な感染予防策が何かを模索する中で、ワクチンを接種していない人を社会から締め出すような政策が続けば、分断はますます進んでいく可能性があります。
ワクチン未接種の人が、「自分のことを二流市民のように感じる」とインタビューで答えているのをテレビで見たとき、これは、私自身が外国で生活している時に感じたことのあるものと似ているのかもしれないと思いました。
統一後の東ドイツ市民が、移民系の市民が、同性愛者が、ありとあらゆるマイノリティーが社会の片隅で感じてきた居心地の悪さや不信感。その構図がまた繰り返されてしまうのでしょうか。それが怒りや嫌悪に変わり、暴力となって爆発しないことを願いながら、
「みなさんには、他人の目で世界を見ることを忘れないでほしい」
という、アンゲラ・メルケル氏が退任式で、政治家としての最後の場で言った言葉を思い出しました。
(高橋萌)