原油価格の高騰を受け、岸田文雄政権は2022年1月25日、異例の価格抑制策の発動を表明した。石油元売り各社に直接、補助金を支給することでガソリンなどの価格上昇を抑える狙いだが、評判は芳しくない。
元売りに補助しても値下げするかは店次第
政府の価格抑制策の発動基準は、レギュラーガソリンの全国平均価格が1リットル当たり「170円」を超えた時。24日の平均価格が170.2円となったことから、27日から補助金の支給が始まった。
初回の補助金額は基準を上回った0.2円分に、当面見込まれる原油の仕入れ価格上昇分3.2円分をプラスした1リットル当たり3.4円だ。ガソリンのほか、灯油、軽油、重油なども対象となり、元売り各社はガソリンスタンドなど小売店に卸す際、補助金額3.4円分を差し引いて販売する。
「小売価格の上昇は順次抑制されると考えている」。岸田首相はこの制度によって実際に消費者が支払う小売価格も抑えられると強調した。それでも世論の評価がいまひとつなのは制度の仕組みが複雑で効果が見えにくいためだ。
補助金によって、たしかに石油元売り各社からの卸値は引き下げられるものの、最終的に小売価格をいくらにするか判断するのは各小売店だ。
小売価格は、卸値に、人件費や輸送コスト、小売店の利益分などを上乗せしたもの。当然、店や地域によってばらつきがある。
離島や山間部では既に発動基準の「170円」を上回る価格で売られているケースも多く、小売りの現場からは「消費者がガソリンの小売価格が170円に下がると誤解しかねない。迷惑だ」(ガソリンスタンド経営者)との声が上がる。
すでに仕入れた在庫もあるため、小売店側が実際に価格を引き下げるのには2、3週間のタイムラグが生じると見られる。制度は発動されたのに、ガソリン価格が変わらない状況がしばらく続くことになり、これも消費者は制度の恩恵を実感できずにいる要因となっている。
原油価格は世界的にさらに上昇基調
産油国のロシアが当事者となったウクライナ情勢の緊迫化もあり、原油価格は世界的にさらに上昇基調にある。今回の価格抑制策で、政府の積極対応をアピールしたかった岸田政権は、当てが外れたかっこうで、慌てている。
政府内では急きょ、新たな対策の検討も始まったが、妙案はなかなか浮かばないのが実情だ。そんな政府の混乱を象徴するような一幕もあった。
「使うことは常に考えていかなければいけない」(萩生田光一経済産業相)
「今現在の解除は政府として考えていない」(岸田文雄首相)
一つ目の発言は萩生田光一経済産業相。ガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の凍結解除をめぐり、価格対策を所管する立場から、1月30日のテレビ番組で述べた。
その翌日、岸田首相の国会答弁が二つ目の発言で、経産相の言い分を否定したのだ。
トリガー条項は民主党政権時代にできた制度で政府・与党内には実行に抵抗感が強い。一方で価格抑制策の上限は5円となっており、早くも上限が間近に迫っている状況だ。
「新年度以降も(原油価格)高騰が続くことも当然、シュミレーションしなければいけない。国民生活の影響を最小限にできるよう検討していく」
価格抑制策の発動を正式表明した25日の閣議後記者会見で、萩生田経産相は制度の拡充・延長を含む追加対策の実施に含みを持たせたが、具体的なプランはあるのだろうか。(ジャーナリスト 白井俊郎)