最近、「データサイエンス」という言葉をビジネスシーンで、よく聞くようになった。大学でも「データサイエンス学部」の新設が相次いでいる。本書「データサイエンティスト入門」(日経BPマーケティング)は、「データサイエンティスト」の仕事について包括的に紹介した本である。
「データサイエンティスト入門」(野村総合研究所データサイエンスラボ編)日経BPマーケティング
2021年4月に発足した野村総合研究所の「データサイエンスラボ」に属するメンバーが執筆した。IT技術が進化し、企業が取り扱えるデータの量は格段に増えた。いわゆるビッグデータの時代になり、AI(人工知能)を使ったデータ分析技術も向上。データを集計・分析できる専門家、つまりデータサイエンティストは、存在感を高めている。
6つのストーリーで具体的な仕事を知ろう!
「データサイエンティスト検定」を主催する一般社団法人データサイエンティスト協会では、データサイエンティストとして欠かせない3つの能力を定義している。
・ビジネス力 課題背景を理解し、ビジネス課題を整理・解決に導く力
・データサイエンス力 情報処理・人工知能・統計学などの情報科学系の知恵を理解し使う力
・データエンジニアリング力 データサイエンスを意味のある形として扱えるようにして、実装・運用する力
3つ目の能力は、ITエンジニアと重なる部分も多い。そのため、ITエンジニアはデータサイエンティストに転身(または兼務)しやすい職種だという。
ところで、データサイエンティストは具体的に、どんな仕事をしているのだろうか? イメージしやすいように6つのストーリーを紹介している。野村総合研究所で働くデータサイエンティストが経験した実例をもとにしたフィクションだが、参考になる。たとえば、こんな話だ。
――大手ファストフードチェーンに、新規店舗の売上を驚異的な精度で予測するデータサイエンティストがいた。ところが彼が倒れたため、情報システム部門で働くシステムエンジニアが仕事を引き継ぐことになった。
そして、かのシステムエンジニアは、データ分析ツールを駆使し、競合となりそうな周辺の店舗、周辺の人口密度、隣接する道路の交通量などを主な変数として、出店候補地を絞り込んでいった。3つの候補地の売上予測はほぼ同額。分析に追加できそうな変数は思いつかない。完全に行き詰まってしまった。
そんな時に、「自分の目で現場を見たのか?」と、退職のあいさつに来たデータサイエンティストが言葉をかけた。それがきっかけとなって、現場に行くと、車線の数が来店する車の台数に影響していることがわかった。予測に使える変数が見つかったのだ。
もうひとつ、大手製薬会社を舞台にした話も面白い。こちらは、こんな話だ。
――MRと呼ばれる営業職の成績は二極化していた。研修を担当することになった大学の准教授は、トップ営業と雑談しているうちに、電話するタイミングや、売りたい薬の話を切り出すタイミングとか、言葉で表現できない要素が大切であることに気がついた。
営業でアポイントを取るための電話音声は、すべて録音されている。電話音声はデジタルデータとしてクラウドサービス上にすべて保存されており、顧客情報やMRの営業成績を管理するシステムとも連携していた。ところが、これらのデータは全く活用されていなかった。
准教授は、それらをもとに、「営業先リスト作成システム」をつくった。すると、下位グループの売上を底上げすることに成功した。
このような6つのストーリーを読むと、データサイエンスの力をビジネスにどう活用するかが見えてくる。「データサイエンティスト」とは、「データを使ってビジネスを変革できる人」なのだ。