「こだわりのマスターの店」が生き残るには...
こうした「喫茶店冬の時代の到来」の背景について、J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、調査を担当した東京商工リサーチ情報部の後藤賢治課長にさらに詳しく話を聞いた。
――喫茶店衰退の流れが決定的になったのは、やはり新型コロナの感染拡大が大きいですか。
後藤賢治さん「実はその前に、2019年10月に消費増税が行われた影響が大きいです。当時、消費税率が8%から10%に上がったわけですが、店内飲食が基本の『喫茶店』には軽減税率は適用されず、10%になりました。しかし、テイクアウトできるコンビニコーヒーは8%のまま据え置かれました。この2%の差がとても大きく、喫茶店の倒産、廃業を加速させたと思います。
その後、コロナ禍でも行われるようになった飲食店の持ち帰り(テイクアウト)の新しいスタイルは、軽減税率の適用を受けるよう、すべてこの時から始まったわけです。ところが、喫茶店はコーヒーの持ち帰りが難しかった。こうして、缶コーヒー、大手チェーン店、コンビニ...と総攻撃を受けている最中にコロナの追い討ちが来ました」
――しかし、同じ大手でも業績に差が出て、二極化が進んでいます。リポートでは、コメダ珈琲店は新商品「シロノワール ぜいたくピスタチオ」のヒットが大きかったからと言いますが、もともとサンマルクカフェだって「チョコクロ」という、甘すぎないビターチョコをクロワッサンで包んだフードメニューが女性に人気ですが...。
後藤さん「立地条件の差もあると思います。ドトールやサンマルクは、駅前のビルや、オフィス街、学生街にあるビルに入っています。喫茶室ルノアールも東京・銀座など、大繁華街に多く出店しています。しかし、コメダ珈琲店は郊外に出店して駐車場付きのところが多いです。
コロナ禍によって、在宅ワークやオンライン授業が広がれば、商談や時間をつぶす人が減りますから、ドトールやサンマルクに入るお客は少なくなります。一方、コメダ珈琲店は、在宅の人もクルマで行くことができます。
もう1つ、郊外店のよさは、ドライブスルーができることです。これなども駅前や繁華街のドトールやサンマルク、喫茶室ルノアールではできません。コンビニのコーヒーも持ち帰りができますよね」
――なるほど。では、昔ながらのこだわりのマスターが、自家焙煎した豆をお客に選ばせ、その場で丁寧に挽きながらコーヒーを淹れてくれる。いい香りが漂うなか、マスターと世間話しながら挽きたての美味しいコーヒーを味わう...。そんなコーヒー好きにはたまらない店はもうダメなのでしょうか。
後藤賢治さん「ファンとしては、個性的で美味しい店は残ってほしいです。しかし、団塊の世代が退職し、コーヒー本来の豆の味を知っている人が減っています。今後は、より本格的な味を求める人と、単に時間つぶしのため、あるいは安くてもソコソコ美味しいコーヒーを求める人――この二極化が進むと思います。街を歩いてもこだわりの店は少なくなりました。
こだわりの店主さんは豆にもこだわっていますが、その豆がここ数年、高騰し続けています。かといって、値上げ分をコーヒー代に転嫁するのが難しい現実があります。古きよき時代の名残をどう売上につながるか。コーヒー以外に新商品をつけたり、個性的な店づくりをしたりするなど、若い世代のニーズに合わせて差別化を図っていかないと厳しいでしょう」
(福田和郎)