ウクライナ情勢が緊迫化しています。
米国のバイデン大統領は数日前の会見で、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナを侵攻するだろう( I think Putin will "move in")」と発言しました。米国はウクライナの米大使館員家族に退避命令を出しています。
個人的にはロシアによる大規模なウクライナ侵攻はないと思っています。それは、まったくコストに合わないからです。確率的には10~20%ぐらいでしょうか。しかし、意味もなく大規模な軍隊を駐留させるわけもありません。
緊張高まれば、英米ロ首脳の支持率アップ?
プーチン大統領の主張は一応、一貫しています。そもそも、NATO(北大西洋条約機構)を東方拡大しないことを、米国が「口約束」したから、ゴルバチョフは東西ドイツ統合に合意しました。しかし、欧米はその約束を破り、旧東ヨーロッパ諸国にNATO拡大、それはロシアの存立に大きな問題だということです。
ウクライナがNATOに加盟しないこと、NATOがこれ以上東方拡大しないことを条文にして約束してもらいたい。でも、これは欧米としても飲めない条件です。ブリンケン米国務長官は、正式にロシアに文書で回答し、拒否しています。
プーチン氏の本当の意図はどこにあるのか。それはプーチン氏にしかわかりませんが、緊張が高まることは、政治家の人気を上昇させます。プーチン氏は2024年に選挙があります。支持率は依然高いですが、それは60%前後にまで落ちており、かつてのように80%を超える支持率ではありません。
2013年頃もプーチン氏の支持率は落ちていましたが、クリミア併合で一気に80%を以上となりました。今回も緊張が高まれば、プーチン氏への支持率は上昇するでしょう。
事情はバイデン大統領も同じかもしれません。バイデン大統領はアフガニスタン撤退のお粗末さで支持率を大きく落とし、今はインフレの高進に40%前後へと支持率を落としています。このままいけば、今年の中間選挙で民主党は負けます。
英国のジョンソン首相も同様で、コロナ禍での首相官邸内でのパーティーで支持率を大きく落としました。
3者ともに緊張が高まれば、その恩恵を受けるという事情は似ています。そうなると、意外とこの緊張は長期化するかもしれません。
ウクライナ有事ならユーロ下落、そのとき円は......
確率は低いとはいえ、もしロシアによるウクライナ大規模侵攻が起こったらどうなるのか?
そのシミュレーションは絶対に必要だ。これまでの小規模紛争とは違い、ウクライナという巨大な国への直接的な侵攻は、マーケットを根底から揺るがす可能性がある。
まず、ロシア・ルーブルのポジションを持っている方は少ないでしょうが、これは当然ダメ。米国はウクライナ侵攻でロシアを国際決済スイフトから締め出すと見られていますが、それがロシア及びロシアの銀行システムに及ぼす影響は甚大です。ルーブルは現状1ドル=77.25ルーブルぐらいですが、100ルーブル超えでしょう。
主要通貨では、スイス・フランが急騰することになります。スイス・フランは通常、対ユーロでのレートでその強弱を測りますが、現状の1ユーロ=1.0380フランから1.00を突破し、0.95からそれ以下のレベルに下落(スイス・フランは上昇)するでしょう。
スイスの中央銀行は、これまでも外国為替市場でスイス・フラン買いの介入を続けてきましたが、すでにその金額は100兆円を軽く超え、米国の気分を害しています。一気にスイス・フランへと避難する資金が殺到すれば、介入は意味をなさないでしょう。
ユーロは、下落します。現状1ユーロ=1.1250ドル程度ですが、1.10ドル割れから、1.05ドル方向となります。直接ロシアと闘うわけではないですが、準紛争当事国のようなものです。ロシアからドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン(ノルド・ストリーム)が止まるかどうかわかりませんが、ウクライナを経由するノルド・ストリームはその流量が減り、欧州の電力事情は危機的になります。天然ガスの価格は当然、急騰します。
円はどうなるか――。そこは少し難しい。開戦初期は「リスクオフの円高」が復活するでしょう。特にユーロ円が売られることになるでしょう。紛争から距離的に離れていることも円買い要因となるかもしれません。現状、128.50円前後のユーロ円は、120円割れに向けて急落するでしょう。
ユーロ円が急落するので、ドル円にも下げ圧力がかかると思われます。1ドル=110円方向でしょうか。
開戦Xデー? 北京冬季オリンピック終了後
もちろん、開戦に伴い、天然ガスの値段は急騰。原油価格も急騰します。1バレル=100ドルは瞬間的に超えることになります。それは日本経済には決して良くはありません。原油が1バレル=150ドルを超えてくるようになれば、円にも売り圧力がかかり始めるでしょう。
株価は当初、世界的に下落します。「遠くの戦争は買い」などと、悠長なことは言っていられないでしょう。しかし、その結果FRBの引き締めがスローダウンもしくは中止するようなことになれば、株価は上昇に転じることになる。資源価格の急騰で、インフレは政治的に説明がつきます。
オーストラリア(豪)ドル、ニュージーランド(NZ)ドルといった通貨は、米国株次第です。当初は、リスクオフで売られるでしょう。しかし、資源価格の高騰がこうした通貨を下支えします。
開戦のXデーと、巷では騒がれるようになってきましたが、それは北京オリンピック(2022年2月4日~20日)終了後とみられています。個人的には、それはないだろうと思っていますが、マーケット的には勝手に侵攻リスクを織り込みに行く可能性もあるでしょう。2月20日が近づくにつれ、その数日前から、スイス・フランが上昇して、円もユーロ円を中心にして買われることになる可能性があります(侵攻がなければ、そのポジションは巻き戻されることになります)。
以上はロシア軍が「大規模」にウクライナに侵攻したケースを想定しています。紛争が非常に限定的なものであるなら、影響は相当小さくなるので、当然市場の動きも違ってきます。米英ロ共に、紛争が長引くほうが、政治的に利益がありそうなので長期化もあるのかな、と。そしてポイントポイントで急激に侵攻リスクが高まったりするのでしょう。
2014年のクリミア併合のときとは状況が違うと思いますが、今後もウクライナ情勢には注意してみていきたいと思います。(志摩力男)