接客業の人は大変だ。顧客の相手にやりがいを感じる人はいいが、悪質なクレーマーの被害を受けた人が74%もいるという調査(2018年9月、サービス業労働組合UAゼンセン発表)もあるほどだ。
それが理由とは限らないが、接客業から異職種へ転職する人が多い。しかも、転職の満足度は9割以上!と成功率が高いという。
接客業の人が「高いスキル」を持っているからのようだが、それをどう活用すれば「いい転職」につながるのか。転職支援サービスのビズヒッツ(三重県鈴鹿市)が2022年1月24日に発表した調査「500人に聞いた接客業から異職種への転職理由と転職活動時の注意点」が参考になりそうだ。さぐってみると――。
転職理由1位は「笑顔でいることが疲れる」
接客スタッフは、コンビニ・スーパー・ショップ・アパレル・飲食・美容・ホテル・娯楽施設など幅広い分野で活躍している。ビズヒッツによると、接客業の人はこんなスキルが身に付くという。「コミュニケーション力」「ヒアリング能力」「商品やサービスの提案力」「対人マナー」「問題や課題を解決する力」「強い精神力」「マルチタスク」「事務処理能力」「協調性」などだ。
スキルに助けられたこともあってか、「転職が順調だったかどうか」を聞くと、71.0%が「順調だった」と答えた=図表1参照。いろいろあって「大変だった」人も3割ほどいたわけだが、転職後の「満足度」を聞くと、「転職してよかった」という人が91.6%にも上った。転職先でも歓迎されたことがうかがえる。
ところで、「なぜ転職したいのか」という理由を聞くと、1位はやはり「接客のストレス」だった=図表2参照。こんな意見が代表的だ。
「ずっと笑顔で接客することに疲れてしまった」(女性、23歳で転職)
「クレーマーや態度の悪い人への接客に疲弊した」(男性、30歳で転職)
「接客業は気を使って神経がすり減ると感じた」(女性、39歳で転職)
とくに「笑顔でいることに疲れた」「クレーム対応がつらい」「お客さんの八つ当たりに嫌気がさした」と答えた人が目立った。なかには「接客ストレスから体調を崩した」という人もおり、「お客さんと直接関わらない仕事に変わりたい」と転職を考えた人が多かったのだ。
勤務への不満「子どもの運動会の日も休めない...」
2位は「勤務日時の不満」だ。いったいどういうことか。声を拾うと――。
「長い拘束時間、不規則なシフトといった勤務形態への不満がきっかけ」(男性、26歳で転職)
「まとまった休みを取りにくく、プライベートの予定も立てられないので、カレンダー通りに休みたいと思った」(女性、29歳で転職)
「子どもの運動会などに参加できなかったので、土日休みの職種に転職しました」(男性、33歳で転職)
接客業の仕事には土日が忙しい職場や、顧客の都合に合わせて働くケースが多い。「拘束時間が長い」「不規則な勤務」「家族が休む土日や、年末年始に休みにくい」などの不満から転職を決意した人が多くいた。
「採用面接時には土日休み可能という話だったが、実際には周りに気を使ってしまい休みづらかった」という人や、「結婚や子どもの誕生をきっかけに、勤務日時が合わなくなった」という理由で転職した人も。
3位は「他業種へ挑戦したい」。これは接客業に限らないことだが、新しい仕事に興味がわいた、人生を変えたくなった、という人はけっこう多い。
「リラクゼーションの仕事をしていたのですが、健康の土台は食にあると悟り、農業がやりたくなりました」(女性、39歳で転職)
「接客業である程度の職位まで昇進できたので、他の業界も経験してみたくなった」(男性、41歳で転職)
「プログラミングに興味を持っていた」(男性、28歳で転職)
具体的な転職先の職業は、保育士、公務員、新聞記者、事務職、営業、製造業などさまざまだ。もともと持っていた資格を活かして転職した人もいれば、「勉強して介護関係の資格をとった」など働きながら転職に向けて資格勉強をした人も少なくない。
転職成功者「店長経験のマネジメント力を評価してもらった」
ところで、異職種への転職はけっこう勇気が必要で、不安を感じる人も多いだろう。みんなどのように成功させたのか、気になるところ。「転職が順調だった人」に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「接客業で店長を経験していたことから、コミュニケーション力やマネジメント力を評価していただき、2か月で4社から内定を得た」(女性、26歳で転職)
「派遣会社を通しての転職で、紹介のされ方や仕事先が決まるまでの早さがよかった。住まいの相談にも乗ってもらえて助かりました」(男性、25歳で転職)
「ハローワークで『事務』『土日祝日休み』などの希望を伝え、勧められた会社に応募したところ、即採用が決まった」(女性、35歳で転職)
転職活動が順調だった人からは「接客業の経験が評価された」という回答が多かったのだ。具体的には、こういう声が届いている。
「ホテルから不動産業への転職。ホテル業界で15年以上経験を積んでいたので、多少の業務負荷には耐性があると判断されたと思う」
「教育業界への転職。接客の経験が保護者対応などに役立った」
一方、「大変だった人」からは、こんな苦労話も聞かれた。
「接客業をやめて手に職をつけるために、3年間学校に通いました。20代半ばからの通学や勉強はとても大変でした」(男性、29歳で転職)
「年齢が40代だったこともあり、正社員としての就職先が見つからず不安定な契約社員などで働くことになりました」(男性、43歳で転職)
しかし、その大変だった人からも「ああ、転職してよかった!」という声が9割以上あったのだ。
「気の使い方が違うので、同じ時間仕事をしていても疲労感が全然違います(女性、24歳で転職)
「デスクワークは座っていられるし、電話やメールでの対応は対面よりも楽に感じる」(女性、37歳で転職)
などなど。なにより「子どもの予定に合わせられる」という声が目立った。
転職成功のコツは「持っているスキルの活用だ」
ビズヒッツでは、接客業から異職種への転職を成功させるためのポイントをまとめている。
「接客業の経験や強みが活かせる仕事を選びましょう。接客業でつちかったビジネスの基本ともいえるさまざまなスキルが身についています。たとえば、人と接することが好きでコミュニケーション力の高い人なら介護職、問題や課題を解決する能力の高い人なら営業職と、自信も持って自分のスキルに合った仕事を選ぶことです」
調査は、接客業から異職種に転職した人を対象に2021年6月8日~21日までインターネットでアンケートを行った。回答を寄せたのは500人(女性352人・男性148人)だった。
(福田和郎)