米国大統領選挙にロシアがサイバー攻撃?!
第3章「選挙介入とフェイク・ニュース」では、2016年の米国大統領選挙を揺さぶった2つのサイバーセキュリティ問題に触れている。
クリントン候補の私用電子メール問題と民主党に対するサイバー攻撃である。フェイク・ニュースを組織的に流したり、データを盗んで暴露させたりしたのはロシアのGRU(ロシア軍参謀本部情報総局)であると米国政府は非難。ロシアの外交官35人を追放し、ロシア政府が米国内で使っていた2つの拠点を封鎖した。
上述のことはよく知られているが、2018年の米国中間選挙で、ロシアのサイバー攻撃を米国のサイバー軍が食い止めたことはあまり知られていないだろう。
これは、米国大統領選挙をめぐるネット世論工作部隊として知られるロシアのIRA(インターネット・リサーチ・エージェンシー)を米国サイバー軍がインターネットから追い出した、というものだ。そこまで米軍が出来た理由について、土屋さんはこう書いている。
「国政選挙に外国が介入することで、米国が奉じる民主主義の根幹が損なわれれば、国家安全保障上の危機であるという認識があったからだ。2016年の介入後、米国政府は選挙システムの保護を、重要インフラのひとつ『政府施設』に含めることにした。そのため、サイバー軍が選挙防衛に従事できるようになった」
ちなみに、日本ではサイバー軍も、それを可能にする法制度もないし、日本の選挙に外国が介入したと報じられたこともないが、土屋さんは「巧妙な介入に備えるべきだ」と提言している。
米軍は現在、サイバー軍を軍種のひとつではなく、統合軍のひとつとして格上げして位置づけている。また、「イスラム国(IS)」へのサイバー攻撃を公に認めるなど、サイバー攻撃を隠さなくなった。
日本の自衛隊にもサイバー部隊はあるが、権限、能力、規模ともに米国サイバー軍には及ばない。とはいえ、能力の向上は必須だ、と指摘している。
本書の先見性に感心した箇所がある。「今後、大きな戦争が起きるとすれば、その際は海底ケーブルが切断され、サイバースペースが分断される危機があることに目を向けるべきである」と警鐘を鳴らしているのだ。2022年1月、海底火山の噴火によって海底ケーブルが切断され、情報が遮断されてしまったトンガのことを思った。
(渡辺淳悦)
「サイバーグレートゲーム 政治・経済・技術とデータをめぐる地政学」
土屋大洋著
千倉書房
3740円(税込)