岸田政権が掲げる「所得倍増」計画。本書「なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか」(ポプラ新書)は、岸田首相が「正しい経済政策」を行えば、10年後には「所得倍増」は可能だ、と書いている。
ただし、それには条件があるという。
著者は、安倍政権で内閣官房参与を務めたこともある京都大学大学院教授の藤井聡さん。アベノミクスが失敗した最大の理由は、2度にわたる消費税の増税だ、と指摘している。そして、コロナショックは日本を再生させるチャンスになりうる、と主張する。
「なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか」(藤井聡著)ポプラ新書
日本国内の法人企業(資本金10億円以上)の利益・給与・株主配当金の推移をグラフを見ると、1997年を100としたら、給与はこの20年間、まったく増えていない。一方、企業の利益は2.5倍に、株主配当は5倍以上に膨らんでいる。理由はこうだ。
「要するに、日本の企業は本来ならば私たちのような一般の労働者に給料として回してしかるべきおカネを、どんどん大金持ちの株主たちに回していった」
企業は株価を上げるために、投資家に株を買ってもらわなければならない。そのため、配当金の引き上げ競争が行われたというのだ。
2度の消費増税で失敗したアベノミクス
藤井さんは安倍政権の内閣官房参与をしていたとき、「分配」のあり方を変えるように提案した。当時、自民党の政調会長だった岸田さんにも説明。岸田さんはおおいに関心を示し、当時の議論が今回の「所得倍増」論につながっている、と書いている。
しかし、株主の取り分を労働者に配分するだけでは、年間15万円程度の増加にしかならない。とても「倍増」とはならない。パイの分け方を改善するだけではなく、パイそのものを大きくする経済成長が必要である、と説く。
アベノミクスをふりかえり、「第2の矢」と言われた財政政策でやるべきことと「正反対」の消費増税をして失敗した、と主張する。
厚労省「毎月勤労統計調査」をもとにした会社員の給与の推移グラフを見ると、2014年に5%から8%に消費増税すると、ズドーンと下がった。10%消費税になる前の2019年9月までの5年間で、安倍内閣は実質賃金を6%下落させた、と指摘している。
藤井さんは2018年の暮れに、10%消費税反対の言論活動に全力を注ぐために内閣官房参与を辞任した。案の定、10%に増税したことによって、2019年10月から景気はとてつもなく悪化した。景気動向指数DIは、10月、11月の2カ月連続ゼロ。バブル崩壊、リーマンショック以来のことだった。
消費税は「社会保障の財源にする」というのもウソで、2割しか社会保障に使われていなかった。増税分のほとんどは政府の借金返済に回していた。
なぜ、財務省は政府の負債を減らすことに血道を上げるのか。
藤井さんは内閣官房参与だった6年間を通じて、財務官僚が「財政の健全化」を目指すという財務省設置法に過剰に縛られていることがわかったそうだ。
そして、彼らは「財政の健全化」とは「国債を発行しないこと」だと勝手に解釈し、緊縮財政に貢献した官僚が出世できるというメカニズムになっている、とも。