「ガソリン税安くする」奥の手を使わない政府
実際、石油元売りの石油連盟の杉森務会長(ENEOSホールディングス会長)は1月24日の定例記者会見で、「(補助金は、ガソリンの店頭価格が)上がることを緩和するための措置であり、下げるためではないことをしっかり説明することが大事だ」と、政府に注文した。
「安くなると誤解されると困る」というわけだが、今回の政府の措置を専門家たちはどう見ているのだろうか。
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、朝日新聞(1月26日付)の取材で、「なぜガソリンなどの燃料だけを支援するのか明確ではない。燃料以外にも原材料は高騰し、食品業界などでは零細企業がコストを転嫁できずに収益が悪化している」。同紙で米投資情報会社プライス・フューチャーズ・グループのフィル・フリン氏も、「(補助金には)短絡的な効果しかない。むしろ、消費者の節約意欲をそいで需要を維持してしまう可能性もある」と、それぞれ懸念を示していた。
一方、こうした付け焼刃的な補助金給付の措置ではなく、「トリガー条項」を解除して、根本的な解決を図るべきという意見も見られる。
「トリガー条項」とは、定められた条件を満たすと発動される条項。ここでは、ガソリンにかかっている高い税金の一部を免除することを意味する。正式には、租税特別措置法第89条の「揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止」のことを指す。内容を簡単に説明すると、こうだ。
「レギュラーガソリン1リットルあたりの価格が3か月連続して160円を超えた場合、財務大臣は翌月からガソリン税の上乗せ分(旧暫定税率)25.1円の課税を停止し、その分だけ価格を下げる」
トリガー条項は、ガソリンにかかる税金が高すぎるという批判を受け、旧民主党政権下の2010年4月に成立した。しかし、翌年3月に東日本大震災が起こったため、復興財源を確保するという名目で運用が凍結されたままだった。
日本のガソリンにかかる税金は諸外国に比べて複雑なうえ、高すぎるという批判が根強くある。
ガソリンには、1リットルあたり「ガソリン税」が53.8円、「石油税」(石油石炭税)が2.8円それぞれかかる。「石油税」に最近、「地球温暖化対策のための税」が上乗せされた。こうした税のうえにさらに「消費税」がかかってくるから厄介だ。ちなみに、これに関しては税金がかかっているうえ、さらに消費税を課す「二重課税」だとして問題視する意見もあるほどだ。
もうすでに1リットル当たり160円の基準を超えている。この際、「トリガー条項」を適用すれば、約3円程度の補助金ではなく、約25円も安くできる、というわけだ。
野党各党はトリガー条項の凍結解除を求めている。しかし、それには法改正が必要なうえ、年間3兆2000億円程度あるガソリン税など税収が減るため、政府は難色を示しているのだ。