米国株式市場の下落が止まらない。ニューヨークダウ平均価格は、2022年1月17日から6営業日連続で値下げした。
オミクロン株の感染大爆発、ウクライナ情勢の悪化という不安材料に加え、なによりインフレを抑制するためにFRB(連邦準備制度理事会)が金融引き締めのペースを速める動きに出ていることが響いている。
米国経済を牽引してきたIT関連銘柄が多いナスダックも大幅な下落となっている。大丈夫か米国株? どうなる世界経済? エコノミストの分析から読み解くと――。
マイクロソフト、アップルの業績に期待だが...
下落続きの米国株式市場の惨状に、米国経済メディアはウォール街のアナリストたちの弱気な発言を伝えている。
1月25日付ブルームバーグ通信。ネッド・デービス・リサーチの米国担当チーフストラテジスト、エド・クリスソールド氏「市場が金融当局の緩和策引き揚げや企業業績の鈍化、財政刺激策の縮小という現実に合わせて調整するに伴い、恐らく今後数カ月に一段の下落があるだろう」
1月25日付ブルームバーグ通信。みずほのマルチ資産戦略責任者、ピーター・チャットウェル氏「米金融当局と世界全般の中央銀行のタカ派色が弱まるきっかけがない限り、株式相場への下押し圧力は比較的持続的なものになるだろう」
1月25日付ロイター通信。サスケハナ・インターナショナル・グループのデリバティブ戦略共同責任者、クリス・マーフィー氏「売りがすぐに収まるとは予想していない」「警戒感が根強い」
今回の米国株下落の最大の要因は、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和策を打ち切り、利上げにより金融引き締め策を明確に打ち出したことだ。具体的にどこまで強い「タカ派姿勢」(金融引き締め策)を発表するのか、市場が注目しているのは、1月25日~26日に開かれるFOMC(米連邦公開市場委員会)の決定だ。
日本時間の1月27日午前4時に金融引き締め策の決定内容が発表されるが、徹底した秘密主義によって、情報が流れてこないため、憶測が憶測を呼び、市場が混乱する元になっている。エコノミストたちの間でも見方はさまざまだ。
野村アセットマネジメントのシニアストラテジスト石黒英之氏のレポート「FOMCと決算が相場下落の歯止めとなるか」のなかでは、FOMC(米連邦公開市場委員会)の場で、FRB(米連邦準備制度理事会)がどんな姿勢を打ち出すかに注目する。
「株安に歯止めがかからなければ、逆資産効果を通じて景気悪化につながるため、FRBはインフレ抑制スタンスをみせつつも『今後の金融政策はデータ次第』などと『引き締め加速一辺倒でもない』とのメッセージを出してくるかが焦点となりそうです」
そのうえで、もう1つの注目点も指摘した。ハイテク企業の業績結果だ。1月25日には米マイクロソフト、27日には米アップルの決算発表が控えていて、
「今週から本格化する米主要企業決算も、米国株にとって重要といえます」「企業の好決算が確認されるようだと、金融相場から業績相場への移行が可能との見方が広がりやすく、株価が一旦下げ止まる展開も想定されます」
というのだ。
FRBの決定は「コインの裏表」を当てるようなもの
FOMCはどんな姿勢を打ち出すだろうか――。「コインの裏表を当てる感覚に等しい」と難しさを指摘するのは、第一生命経済研究所の主任エコノミスト藤代宏一氏だ。藤代氏のレポート「パウエル・プットは期待できない1月FOMC」(1月24日)のなかで、市場に流れているさまざまな推測を分析する。
ちなみに、「パウエル・プット」の「パウエル」とはパウエルFRB議長のこと。「プット」とは金融保険用語で、株価の下落局面での保険のことだ。
これまでパウエル議長は、株価が下落しそうな局面になると、否定的なコメントを出し、ウォール街を救ってきた。だが、今回はそんな甘い発言は期待できそうもない、という意味だ。
藤代氏はこんな厳しい予想を次々と紹介する。
「数か月前までなら『トンデモ予想』に分類されていた極タカ派な声も聞かれており、タカ派方向へのサプライズを否定することはできない」「『年4回以上』の利上げが示唆される可能性に注意したい」「2000年以降の利上げサイクルにおいて封じられてきた0.5%の利上げを敢行することは金融市場への悪影響があまりに大きく非現実的な選択肢と考えられるが、一部市場参加者は0.5%利上げを意識しているようだ」
0.5%利上げ説については、藤代氏もあり得ないことではない、と指摘する。
「その可能性は極めて低いと判断しているが、即効性のあるインフレ対策を求められているFED(連邦準備制度)がそうした過激策に触手を伸ばすことは否定できない。もう一つ考えられるのは3月に次いで5月の利上げを同時に示唆することだ。『インフレ集中対応』として年前半の引き締め幅を大きくすることには一定の合理性があり」「0.5%利上げよりは実現可能性の高い選択肢だろう」
いずれにしろ、FRBの「コインの裏表」はコインをトスした後でなければわからない。
米金融当局の景気下支えが期待できない
FRBを中心とした米金融当局の景気下支えが期待できないという点では、大和総研ニューヨークリサーチセンター研究員(NY駐在)の矢作大祐氏のレポート「米国経済見通し オミクロン株で急減速 悪影響は短期間で収束見込みも、財政・金融政策のサポートは少ない」(1月20日付)の中でも、厳しい見方を示している。
オミクロン株の影響については、
「オミクロン株による感染拡大は急激である一方で、収束も早い可能性があり、経済への悪影響も短期間で収まると見込まれる」
としながらも、問題は米の財政・金融当局の経済への景気支援策だという。インフレ対策のほうを重視しているというわけだ。
「感染収束後の回復ペースは、財政・金融政策による下支えが見込みにくいことから、従来と比べて力強さに欠ける恐れがある。財政政策に関しては、成長戦略の実現可能性が低下しつつある」「実質賃金の低下に加え(中略)低・中所得層の暮らし向きは悪化し、個人消費の回復ペースの再加速を抑制し得る」「FRBはインフレ加速への対応として金融政策の正常化(上半期は利上げ開始、下半期はバランスシートの縮小開始)を進め、金融環境は今後タイト化する見込みである」
矢作氏がとりわけ問題視するのは、バランスシートの縮小だ。FRBはバランスシートの縮小のために、資産を全面的に売却する可能性が高い。
「バランスシート縮小検討の過程は実質金利が上昇する傾向にあり、企業や家計の借入意欲の低下、ひいては投資・消費の抑制要因になり得ると考えられる」
加熱したインフレを冷やすために、景気が後退するのではないかと懸念するのだ。
投資家心理を測る変動性指数(VIX)に注目を
ところで、1月25日の米株式市場は値動きの荒い展開となった。ダウ工業株平均は一時1100ドル近く下落したが、午後から買い戻しに転じて、かろうじて前週比プラスで終わった。
しかし、この日注目されたのは、投資家心理を測る指標である変動性指数(VIX)が一時、前週末比より3割高い38と心理的危険水域である30を大きく上回ったことだ。
VIX(ヴィックス)は「Volatility Index」(ボラティリティ・インデックス)の略。恐怖指数とも呼ばれている。
VIXが40を超えると、株価の暴落が始まると言われる。日本経済新聞(1月25日付)「NYダウ乱高下、FRB・ウクライナ警戒で一時1100ドル安」の中の「ひとくち解説欄」で、同紙マネー・エディターの山本由里記者は
「利上げ、地政学リスク、資源高、コロナ......マーケットの波乱要因は満載。恐怖指数と呼ばれるVIXが一時40近くというのはなかなかの恐怖です。一度、乱気流の時間帯に入るとしばらくブレは大きくなります。こういう時こそ基本に返る。(中略)やってはいけないたった1つのこと、それは『慌てて売り払う』。損失が確定し回復のチャンスを失います」
と指摘した。同欄では、同紙編集委員の高井宏章氏も、この「恐怖指数」が高まったことに注目した。「(恐怖指数VIXの上昇は)それが何を意味するのか。『誰の恐怖』を反映しているのか」として、関連動画「株安の前兆『恐怖指数』VIXはこう読む」でも解説したのだった。
それによると、リーマンショック時などのパターンから、VIXの急上昇は株価急落前の前兆と言えるという。VIXが40~60になるとパニック状態に近くなる。もっとも、高井氏は動画の中で
「VIXがこうした異常値を示した時、株価が急落したあとには往々にしてリバウンドが待っています(株価が戻る)。つまり、VIXが異常値をつけているのは、マーケットが過度に悲観に傾いているんだろうなと解釈しています」
とアドバイスするのだった。バタバタしないで、ちょっと引いてみましょう、というわけだ。今後は米国市場の「恐怖指数」(VIX)にも注目だ。
(福田和郎)