売り手市場がずっと続いていた大学生の就活が「冬の時代」に入るかもしれない。経済界の中に「新卒一括採用見直し」の動きが広がっているからだ。
そもそも、4月に大学卒業生をまとめて入社させて社内で教育するシステムをとっているのは日本くらいのもの。
日本経済界連合会(経団連)の会員企業調査でも、就活生の背筋が寒くなりそうな結果が出ている。
「ガラパゴス採用」と酷評される新卒一括採用
報道によれば、日本経済団体連合会(経団連)が「新卒一括採用」の見直しを加速させるよう、企業に促す方針だ。経団連が今年(2022年)の春闘を前に示す指針で、4月の「新卒一括採用」の割合を減らし、中途採用や通年採用を拡大する方向で見直すよう提案するという。
4月の新卒一括採用については、日本の若者の失業率を低く抑えているメリットがある一方、専門性の高い経験者などの中途採用を抑制しているとの指摘がある。欧米では、職務に応じてスキルを持つ人材をそのつど雇用する「ジョブ型採用」がスタンダードだ。日本企業でも、日立製作所や富士通、資生堂などの大手企業で取り入れられているが、まだ、一部にとどまっている。
しかし、新卒を一から社内で育成し、職務を振り分けていく日本式の「新卒一括採用」は、もはや世界では「ガラパゴス採用」とまで酷評される状況だ。「大企業の一括大量採用が、中小企業の人材獲得や、日本のベンチャー振興を阻害している」という批判もある。経団連は、採用方法など日本の雇用慣行の見直しを促し、人材の活躍推進につなげたい狙いだ。
そんななか、経団連が2022年1月18日、「採用と大学改革への期待に関するアンケート結果」を公式サイトに発表した。
これは、経団連が会員企業を中心にした381社の大企業に、採用方法の改革や大学生に求める「資質」「能力」など聞いたアンケート結果だ。それによると、すでに「新卒一括採用」の流れが崩れていることがわかる。
まず、大卒者に特に期待する「資質」を聞くと、回答企業の約8割が「主体性」と「チームワーク・リーダーシップ・協調性」を挙げた。変化の激しい人生100年時代を迎え、「実行力」と「学び続ける力」を強調した企業も4割近い。
特に期待する「能力」としては、「課題設定・解決能力」「論理的思考力」「創造力」が上位に。また、特に期待する「知識」では、「文系・理系の枠を超えた知識・教養」が最も多かった。
ジョブ型と外国人採用がどんどん増える
注目されるのは、既卒者や外国人の採用が今後どんどん増えて、通年採用を実施する企業が増加しそうなことだ。また、ジョブ型採用(職務に応じた人材採用)も大企業を中心に増加傾向が見られ、採用方法の多様化が急速に進みつつある。
具体的には、ジョブ型採用は新卒者でこれまで3.8%だったのが、今後5年間で18.8%に、既卒者でこれまで26.8%だったのが今後5年間で43.7%に、それぞれ増加するとした回答が寄せられている=図表1参照。
また、外国人の大学生を意識的に採用する企業も増えている。外国人の採用は過去3年間で「増加している」と答えた企業が10.1%にとどまったのに対し、今後5年間では21.8%が増加を予測した。理由を聞くと、「優秀な人材を確保するため」と「社内のダイバーシティ(多様性)を促進するため」の2つが群を抜いて多かった=図表2参照。
一方、「新卒一括採用」も崩れ始めている。新卒者と既卒者の採用割合は過去3年間で9対1だったとする企業が23.7%で最も多かったが、今後5年間では7対3になるだろう、という企業が15.6%で最多だった。詳しくみていくと、9対1の企業が8.4%に減少する一方、6対4、5対5にする企業が増加するようだ=図表3参照。いずれにしても、既卒者の割合がどんどん増やす傾向にあることがわかる。
したがって、これまでの「新卒一括採用」を前提にした就職活動も、いずれ通用しなくなりそうだ。では、学生はどんな能力を磨けばよいのだろうか――。採用選考で重視する学生の学修経験を聞くと、80%以上の高さだったのが「研究室・ゼミでの学習履歴」と「課外活動」だった。「海外留学」(4%)や「取得した資格」(7%)、「インターンシップ経験」(11%)は意外に低かった。
基本に忠実にシッカリ勉強した学生や、課外活動に熱心に取り組んだアツイ志を持つ学生が欲しい、ということのようだ。
調査は2021年8~10月に経団連の会員など全国の企業に調査票を配布、381社から回答を得た。内訳は会員企業335社、非会員企業46社。従業員1000人以上の大企業が71%、300人以上1000人未満が20%、300人未満が9%だった
(福田和郎)