内閣府は2022年1月14日の経済財政諮問会議で、新たな中長期財政試算を示した。
政府が2025年度の黒字化を目指す国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)について、26年度にも黒字化すると試算。歳出改革を続ければ、25年度の目標達成は可能とした。
だが、この説明を信じている人は、霞が関ですらほとんどいないだろう。
この20年で名目GDPの3%成長を実現したのは1年だけ
プライマリーバランス(PB)は、社会保障や公共事業といった政策的経費を、借金に頼らずにどれだけ賄えるかを示す指標だ。税金などでカバーできれば黒字、それだけでは足りず国債発行などが必要になれば赤字になる。
政府がPBの黒字化にこだわるのは、日本の財政事情が先進国で最悪の水準にあるなか、「せめて政策経費だけでも税金で賄えるレベルにする必要がある」(財務省幹部)からだ。
しかし、この財政再建に向けた第1歩の目標でさえ、日本は達成できずにいる。安倍晋三政権で当初2020年度とされてきた黒字化目標が25年度に先送りされている。岸田文雄政権も当面、この路線を踏襲する方針だ。
「現時点で財政健全化の目標年度の変更が求められる状況にないことが確認された」
岸田首相は1月14日の諮問会議で、今回の中長期試算を踏まえ25年度目標の達成は十分可能だと強調してみせた。
ただ、これはあくまでもポーズに過ぎない。岸田氏が「達成可能」の拠り所とする中長期試算自体、実現不可能な前提を重ねた「絵に描いたモチ」に過ぎないからだ。
今回の試算で示された2026年度のPB黒字化の前提は、名目GDP(国内総生産)で3%、実質GDPで2%の経済成長が毎年続く「成長実現ケース」が達成できた場合。
現実はどうか。この20年、日本が名目GDPの3%成長を実現したのは2015年度(3.3%)だけで、他は低成長もしくはマイナス成長に沈んでいる。新たな成長を促す原動力も見当たらず、日本が突然、高成長社会に突入するという仮定は非現実的といわざるを得ない。
岸田首相は財政支出の継続姿勢を崩さず
歳出見通しも「激甘」だ。日本では毎年秋に補正予算を編成することが常態かしているが、今後の歳出見通しには補正予算編成の影響が組み込まれていない。
岸田首相は「経済あっての財政であり、間違ってはいけない」と大規模な財政支出を続ける姿勢を崩しておらず、大規模な補正予算の編成は避けられない状況だ。
成長率や歳出見通しなどあらゆる指標を最大限、過剰に見積もって初めてPB黒字化がやっと見えてくるというのが、日本が置かれている現実だということがわかるだろう。
実際、成長率が名目1%台前半、実質1%程度で推移する実情に近い前提で仮定した「ベースラインケース」の場合、PBは26年度時点でも4.7兆円の赤字になる見通しだ。補正予算編成など実際の歳出がかさめば赤字幅はさらに拡大することになる。
PB黒字化目標は政府にとって、与党の強い歳出拡大圧力をけん制する論拠として重宝されてきた。自民党内の歳出拡大派から「黒字化目標を廃止せよ」という声があがるのも逆説的にそれを証明している。
しかし、現実離れした試算を続けていては黒字化目標そのものへの信頼度が下がり、歳出圧力への「防波堤」の役割もいずれ形骸化してしまうだろう。
「新型コロナウイルスの危機を乗り越え、経済をしっかり立て直す。そして財政健全化に向けて取り組んでいく」
岸田首相は「財政健全化」の重要性を叫んではいるものの、杜撰な試算内容を見れば、その言葉もむなしく響く。(ジャーナリスト 白井俊郎)