テレワーク時代に成果を出す上司とは?
友原さん自身はどうだったか。在宅勤務でケアレスミスが増えたデメリットがあった一方、会議がコンパクトになった、学生からの質問が増えたなどのメリットがあったという。
そうした実体験からも、在宅勤務にすればすべてが解決するわけではなく、人によって向き不向きがある、と結論づけている。
テレワーク時代に成果を出す上司とは? という面白い問題提起もしている。「怒っていてこわもての上司」か、それとも「幸せそうで元気な上司」か?
これについて、オランダの大学の研究結果を紹介している。結論は......どちらがいいかはわからない、というもの。肩透かしを食ってしまった。
というのも、効果的な接し方は、部下らの性格によるそうだ。「オンライン勤務でのリーダーは、ポジティブとネガティブを使い分けるきめ細かい対応が求められる」というのが結論だった。
この手の本は著者の思いつきで書かれたものが少なくないが、本書は違う。本文でも多くの学術論文を紹介し、巻末には引用文献のリストが載っている。学術本のレベルを保ちながら、わかりやすい新書に書き下ろした著者の力量に感心した。
最後に友原さんは、これらの研究に基づいた幸せな働き方のヒントを挙げている。
まず、企業は従業員に「幸せ」を押しつけないこと。職場は生活の一部でしかないという大局的な視点を求めている。また、ネガティブな人が力を発揮する場面も少なくないので、そうした人でも働きやすい職場環境の整備を求めている。
日本の企業ではこれまで、やたらとポジティブ志向が求められてきたのではないだろうか。ポジティブなふりをすることが業績評価にも反映されてきた。
だが、コロナ禍でリモートワークになって社員は働きやすくなり、ひいては会社の業績が上がったというケースも多いことだろう。現に、商社をはじめ、空前の好業績だった業界も少なくない。
無理にネガティブになる必要もないが、過剰にポジティブになることもない――。心おだやかに仕事をすることが一番ではないだろうか。
(渡辺淳悦)
「会社ではネガティブな人を活かしなさい」
友原章典著
集英社新書
924円(税込)