靴専門店チェーン国内首位のABCマート(社名はエービーシー・マート)の株価が2022年1月13日に一時、前日終値比250円(5.5%)高の5250円まで上昇した。その後も値崩れはしていない。
前日の12日に発表した株主優待制度の廃止と自社株買いが株主還元強化策と受け止められた。同時に発表した2021年3~11月期連結決算も堅調な内容。年明けに発表した12月の売上高も好調で、21年12月28日につけた昨年来安値(4825円)を直近の底値として値上がりしていく可能性もありそうだ。
株主優待はコストがかかる
商品やサービスを通常価格より割り引くなどして提供する株主優待制度は、節約策にもなるとして個人投資家に人気がある。しかし、提供する側にとってはコストがかかるため、コロナ禍で経営悪化した企業が廃止や縮小に踏み切るケースは珍しくない。
ただ、ABCマートの場合は国内では足元、コロナ禍前まで売り上げを戻しており、海外も好調。コストを嫌うのではなく、配当など他の還元策を優先するためという点が機関投資家に歓迎されている。
ABCマートは優待制度について、
「株主のみなさまのご支援に感謝するとともに、より多くの方々に中長期的に株式を保有いただくことを目的としてきた」としたうえで、「すべての株主様への公平な利益還元の観点より、配当等による利益還元を優先することとし、株主優待制度を廃止する」
と説明している。
具体的には2021年2月末時点の株主に贈った2022年4月末を有効期限とした優待券を最終とする。一方、自社株買いは発行済み株式総数の1.81%にあたる150万株、75億円を上限とし、22年1月13日~2月28日に取得する。
21年12月の売上高は好調
ABCマートは、2021年3~11月期連結決算は売上高が前年同期比12.6%増の1805億円、営業利益は33.5%増の198億円、最終利益は40.0%増の143億円だった。国内でスポーツサンダルの売り上げが前年同期比2.5割増となるなどして2ケタの増収増益と回復はしているが、緊急事態宣言などで客足が遠のいた時期があり、6月、8月、9月、11月と既存店売上高はマイナスだった。このため、やや遡るが10月13日に2022年2月期通期の売上高予想を下方修正しており、その流れで2021年末に安値をつけた。
しかし、2022年1月5日に発表した12月の既存店売上高は、前年同月比14.1%増と好調。月後半から北海道や東北などで降雪向け需要も高まった。
SMBC日興証券は「国内客売り上げはコロナ前水準を回復」「需要回復を受け値引きを抑制」と指摘した。この辺りから株価も反転基調を確かにしている。
ちなみに、ABCマートの海外売上高は全体の30%程度。特に韓国は全体の20%程度にのぼり、店舗数も全体の20%程度を占める。日本企業という印象が韓国人に浸透していないため、徴用工問題などに絡む不買運動を免れたとされているうえ、コロナ禍からの回復も進んでおり、2021年1~9月期の売上高は前年同期比14.6%伸びた。
(ジャーナリスト 済田経夫)