岸田政権「経済安保」推進急ぐ AI、5G、半導体... このままでは中国に製造業の命運を握られる!?

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   岸田文雄政権が「経済安全保障」の強化に動いている。

   看板政策の一つと位置づけ、担当閣僚を置き、2022年1月17日召集の通常国会に「推進法案」を提出した。今なぜ経済安保なのか、そのポイントはどういうものなのか――。

  • 世界中で不足している半導体も中国が生産量を増やしている
    世界中で不足している半導体も中国が生産量を増やしている
  • 世界中で不足している半導体も中国が生産量を増やしている

世界各国が物資や技術の獲得にしのぎを削る時代

   岸田首相は2021年10月、就任にあたって経済安全保障担当相を新設し、自民党内で議論をリードした若手の小林鷹之氏を起用した。衆院選を経て、11月に首相を議長に経済安保推進会議や専門家による有識者会議を設置して議論を本格化し、並行して法案の策定を進めている。

   11月19日の推進会議の初会合で、岸田首相は「世界各国が戦略的物資の確保や重要技術の獲得にしのぎを削るなか、我が国の経済安全保障の取り組みを抜本的に強化することが重要だ」と強調。同26日の有識者会議発足にあたり、小林担当相が「国際情勢が複雑化するなか、国民生活や社会経済活動を守るには、基幹産業など多岐にわたる脆弱性を把握し、対応を強化する必要がある」と述べた。

   実際に何が問題なのか――。「安全保障」といえば、これまでは政治的、軍事的側面を中心に議論されてきた。これに「経済」が結びくようになった背景には先端技術分野で存在感を増す中国に対し、世界的に警戒感が高まっていることがある。

   中国は、2015年にハイテク産業育成策「中国製造2025」を策定し、第5世代通信(5G)や人工頭脳(AI)など先端分野に力を入れている。ただ、先端技術は世界でも軍民共用の「デュアルユース」が常識で、とりわけ中国ではそうしたハイテク企業と軍との関係が深く、技術が軍事転用されたり、情報機器やアプリなどのサービスがスパイ活動に使われたりしていると指摘されている。

   同時に、半導体の世界的な不足で、部品などのサプライチェーン(供給網)への関心が高まった。トヨタ自動車など大手自動車メーカーですら半導体を確保できずに減産を強いられ、供給網の弱さが露呈したのだ。

   ここでも、中国が深くかかわる。半導体は、あらゆる技術の基盤となり、現代の工業製品に不可欠になっているが、中国は技術力を高め、生産量も伸ばしている。足元で半導体の生産能力は、中国が世界の15%程度と日本とほぼ同水準で、台湾、韓国に次ぐとみられているが、つい1年前には、2030年に中国が30%程度に倍増して首位になるとの見通しが語られていた。

   このため、中国に自国の製造業の命運を握られかねないという危機感が、米国を中心に広がった。

経済安保の柱は4本

   同様の問題は半導体にとどまらず、先端技術にかかわる製品に不可欠で中国など一部の国に偏在するレアメタル(希少金属)、レアアース(希土類)なども含めた部品・原材料全体の供給網の危機と意識されるようになっている。

   具体的に、どのような政策を進めるのか。政府は経済安全保障推進法案の原案をまとめ、与党に説明を始めている。柱は「供給網」「基幹インフラ」「技術基盤」「特許非公開」の4分野。

   「供給網」では、滞れば国民生活や産業に重大な影響を及ぼす半導体などを「特定重要物資」に指定し、国が供給網の強化に向け、事業者が作成した計画を認定し、資金支援する。半導体のほかレアアースなどを想定する。

   「基幹インフラ」については、情報通信やエネルギーなどのインフラ事業者が重要な設備で安全保障上の脅威になり得る外国製の設備を新たに導入する際、政府が事前審査する。

   技術基盤では量子技術や人工知能(AI)など「特定重要技術」の開発促進に向け、資金支援する仕組みも設ける。

   機密情報の流出対策も規定。官僚には国家公務員法の守秘義務違反などがあるが、民間への罰則も検討する。ただ、民間への「セキュリティークリアランス」の導入は見送る。機密情報を扱う者の適格性を予め確認するもので、公務員に導入されているが、身辺調査などが行われるため、野党が「人権制限になりかねない」と、民間人への適用に懸念を示していた。

   「特許の非公開」は、機微技術の公開を防ぐ狙いがある。日本では特許取得から一定期間後に出願内容が公開されるが、国が安全保障の観点から非公開にできるようにする。対象を原子力技術や武器だけに用いられる技術のうち、「我が国の安全保障上、極めて機微な発明」に限定することで企業への影響に配慮するとともに、発明の実施や開示などが制限されることに伴う損失を国が補償する。

   岸田政権は2021年暮れの臨時国会で、先端半導体工場の誘致を後押しするための関連改正法案と補正予算を成立させ、台湾・積体電路製造(TSMC)がソニーグループを熊本県に建設売る新工場が、その適用第1号になる見込み。これも、実質的に経済安保法案の一部先取りという位置づけだ。

したたかな米国の対外政策

   米中対立の脈絡で考えれば、経済安保で米国との連携重視という岸田政権の基本スタンスは当然に見える。菅義偉前政権時代の2021年4月、日米首脳会談の共同声明に「半導体を含む機微なサプライチェーン(供給網)での連携」「AIや量子科学、宇宙での技術開発の協力」などと言及しているのも、問題意識として経済安保であり、岸田政権はこれを引き継ぎ、さらに「目玉政策」に引き上げた形だ。

   ただ、米国の対外政策はしたたかで、日本の一部反中国派のように「経済安保」と叫んで対中強硬姿勢に酔っているわけにはいかない。

   米国は、トランプ前政権時代に安全保障に関わる自国製品・技術の対中輸出管理を強化した。安保と経済面の「自国ファースト」の組み合わせといえるが、バイデン政権に代わっても基本は継続している。

   米国の技術を組み込んだ日本製品も中国に輸出するには米商務省の許可が必要とされ、日本の半導体の対中輸出(香港を含む)は2019年以降、ほぼマイナスで推移するのも、米国の規制、あるいはそれを意識した日本メーカーの「自主規制」が原因とみられる。

   その一方、同時期の米国半導体の対中輸出は急増しているという。「安全保障と通商政策をシンクロさせ、自国産業・企業へ有利な状況を作り出すのは、伝統的に米国の得意とするところだ。

   大統領は変わったが、半導体の対中ビジネスで日本からシェアを奪う姿勢は一貫しているのではないか」(ピクテ投信投資顧問レポート「半導体対中戦略に見る米国の『自国ファースト』」(21年7月30日)との指摘もある。

   経済安保政策においても、したたかな対応が必要だろう。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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