したたかな米国の対外政策
米中対立の脈絡で考えれば、経済安保で米国との連携重視という岸田政権の基本スタンスは当然に見える。菅義偉前政権時代の2021年4月、日米首脳会談の共同声明に「半導体を含む機微なサプライチェーン(供給網)での連携」「AIや量子科学、宇宙での技術開発の協力」などと言及しているのも、問題意識として経済安保であり、岸田政権はこれを引き継ぎ、さらに「目玉政策」に引き上げた形だ。
ただ、米国の対外政策はしたたかで、日本の一部反中国派のように「経済安保」と叫んで対中強硬姿勢に酔っているわけにはいかない。
米国は、トランプ前政権時代に安全保障に関わる自国製品・技術の対中輸出管理を強化した。安保と経済面の「自国ファースト」の組み合わせといえるが、バイデン政権に代わっても基本は継続している。
米国の技術を組み込んだ日本製品も中国に輸出するには米商務省の許可が必要とされ、日本の半導体の対中輸出(香港を含む)は2019年以降、ほぼマイナスで推移するのも、米国の規制、あるいはそれを意識した日本メーカーの「自主規制」が原因とみられる。
その一方、同時期の米国半導体の対中輸出は急増しているという。「安全保障と通商政策をシンクロさせ、自国産業・企業へ有利な状況を作り出すのは、伝統的に米国の得意とするところだ。
大統領は変わったが、半導体の対中ビジネスで日本からシェアを奪う姿勢は一貫しているのではないか」(ピクテ投信投資顧問レポート「半導体対中戦略に見る米国の『自国ファースト』」(21年7月30日)との指摘もある。
経済安保政策においても、したたかな対応が必要だろう。(ジャーナリスト 白井俊郎)