「モノの流れ」「人の流れ」の沈滞こそが、地域間の格差の元凶であるとして、高速道路の料金定額化を訴えているのが、本書「地域格差の正体」(クロスメディア・パブリッシング発行、インプレス発売)である。高速道路を「400円乗り放題」にするだけで、国内総生産(GDP)は35兆円増えるという主張に耳を傾けてみた。
「地域格差の正体」(栗岡完爾・近藤宙時著)クロスメディア・パブリッシング発行、インプレス発売
著者の1人、栗岡完爾さんは元トヨタ自動車副社長。現在、名古屋商工会議所顧問。もう1人の近藤宙時さんは元岐阜県職員。現在、中小企業団体中央会専門員。
経済活性化の最大の起爆剤は観光である――これが主張の出発点である。日本人はもっと国内旅行をしたがっている。何らかの理由でできないから、していないだけだという。
たとえば、コロナ対策として配られた10万円の特別定額給付金の使い道(日本生命調べ)によると、1位は生活費の補填(53.7%)、2位は貯蓄(26.1%)、3位は国内旅行(10.1%)だった(複数回答)。「コロナ禍の中にあっても、国民の約1割もの人が、何よりも国内旅行をしたいと考えていたという事実は非常に意味が深い」と本書にある。
その一方で、「Go To トラベルキャンペーン」は、「補助金がなくなれば後に何も残らないという、まさにバブルに過ぎないバラマキ補助」だったと批判し、「消費が持続的に拡大する効果が見込まれる投資」に対して行われるべきだと主張している。
日本人はドイツ人、イギリス人の半分以下しか国内旅行をしていない
世界に目を向けて、日本と経済環境に近いドイツ、イギリスと比較した国内旅行関連のデータが興味深い。結論から言えば、日本人はドイツ人、イギリス人の半分以下しか国内旅行をしていないというのだ。
自国民の国内宿泊数は、日本が2億9188万泊であるのに対し、ドイツでは3億6640万泊、イギリスは3億7170万泊。人口比で見ると、日本を100とすれば、ドイツが191、イギリスは243となり、上記の指摘を裏付ける。
国内旅行の消費額もこの数値に比例しており、日本人が1年間に旅行で使う金額の合計が20.5兆円であるのに対し、ドイツは39.69兆円、イギリスは28.8兆円。1人当たりでは、日本を100とすると、ドイツは294、イギリスは267になる。
ということで、日本人の国内旅行を阻むボトルネックを取り除けば、飛躍的に伸びる余地がある、と指摘する。
そのボトルネックは何か。
よく言われる休暇日数の少なさや鉄道環境も検討しつつ、ずばり高額な「高速道路料金」だと断じている。
ドイツとイギリスが乗用車については基本的に無料であるのに対し、日本は1キロ当たり約25円もの料金を徴収している。「高額」というのは、JR東日本の鉄道料金が1キロ当たり16.2円に過ぎないのに比べて、あまりにも高額だからだ、としている。
「自分の車にガソリンを入れて運転する高速道路料金が、乗るだけでいい鉄道料金より5割も高い」のは、確かにおかしい。
外国人向けにはすでに定額制の高速道路料金を提供していることを初めて知り、驚いた。日本の主な高速道路では、外国人に対して「Japan Expressway Pass」というサービスを提供している(21年8月現在、コロナ禍のため一時停止中)。乗り放題7日間で2万400円。1日当たりでは3000円以下になる。
なぜ、このすばらしい施策を日本人に対して行わないのか。そんな疑問に対して、高速道路の距離制料金制度の欠陥を検証している。
これは、東名高速道路の料金制度を決めた時、世界中で距離制の料金制度を採っていた国はなく、先行した首都高は定額制だったから。現行の距離制制度には、何らの理論的根拠はない、というのが著者の主張だ。