コロナ禍2度目の新しい年を迎えた、2022年(令和4年)。新春の新聞、雑誌、ネットで経済に関する今年の予測的記事を眺めていると、やけに目に付いたのが「Z世代」という言葉でした。これは消費経済だけでなく企業経営の領域でも、頻繁に登場していたのです。
「Z世代」とは、1990年代半ば以降生まれの人たちのことを指していますが、昨今はその先頭を走る人たちが20代後半に差し掛かってきたところ。いま、この人たちの中から「Z世代経営者」と呼ばれる企業家たちが続々登場して、企業マネジメントの常識を変えつつある......というのが「Z世代」を経済関連記事で取り上げた際の共通項であったという印象です。
低成長時代育ちの合理性重視な「Z世代」
彼らはバブル経済崩壊後に生まれた、まさしく新世代の人たちと言えます。現在の日本経済の根底は、戦後復興を支えた高度成長期と、その延長上に位置するバブル経済までの40年超にわたる経済的な成長が、重要な役割を果たして作られてきたわけです。ところが、「Z世代」はそもそもその時期を全く知らない。もっと端的に言えば、無駄を敵視し、合理性を重視する「経済の低成長」時代に育ってきた世代なのです。
私などは、昭和の高度成長期に幼少~思春期を過ごし、社会人の初期は膨らみ続けるバブル経済とともに歩んだ、そんな世代です。バブル経済崩壊後には、不動産不況やら金融危機やら、さまざまな苦難の時代と一転した低成長を経験してきたわけなのです。が、それを「苦難」と感じるのは高度成長期やバブル経済期を経験し、少なからずその恩恵を受けてきたから。それを全く知らずに育った世代とは、感覚的に大きな隔たりがあると思っています。
言い換えるなら、「Z世代」は「経済は低成長が当たり前」いや「低成長経済しか知らない」世代です。令和4年の年頭に際してこの「Z世代」が経済界で注目を集めているのは、なぜか。コロナ禍3年目を迎え、世に定着しつつあるニューノーマルが、「Z世代」にマッチしているからなのかもしれません。
なぜならば、「Z世代」は変化に対する順応力が高い若い世代であり、かつ、コロナ禍で在宅ワークやオンライン営業の定着化が進んだことで、低成長時代育ちの合理性重視、という彼らの基本姿勢が時代にマッチしているとも考えられるからです。
昭和世代経営者も見習うべきものがある
ベンチャーエンタープライズセンターの調査によれば、ウィズコロナが定着の色を濃くした昨年後半のベンチャー投資は、前年比7割以上も伸びている、と言います。そのすべてが「Z世代経営者」ばかりではないものの、彼らがこの増加傾向に寄与していることは確実。彼らの経済界、産業界への影響力は、次第に大きくなってきている、とも言えるでしょう。同時に、若い企業経営者が、大挙して世に出ることによって、我が国の企業経営や産業構造の常識は大きな転換期を迎えつつある、ということにもなりそうです。
では「Z世代」の新常識は、旧世代の常識と何がどう違っているのか。彼らの特性について取り上げた新春の記事を総括すると、以下のようなことが挙げられそうです。
ひとつは、彼ら世代の経営者同士が、旧来の経営者同士よりも容易に仲間や同輩としてつながることを躊躇しない、ということが指摘されています。旧来は、経済団体や同業者組合のような場での交流を通じて、若干のつながりは持ちつつも、それはあくまで儀礼的なものだったと思います。本業の肝心な部分は「企業秘密」として絶対に明かさない、というのがこれまでの経営者の常識でありました。しかし「Z世代経営者」では、メリットありと考えるならば、躊躇なく新興勢力同士手を組んで価値向上をめざす、という考え方が一般的になっているのです。
これは、昭和世代経営者も見習うべきものがあると思います。失うモノがあるという可能性を恐れるよりも、得るものがあるという可能性を重視する。そんな姿勢は、合理性を重視する彼らの基本スタイルそのものです。これからの時代を生き抜くマネジメントの重要なピースになるのではないかと考えます。
資金調達に関しても、彼らなりの合理的な考え方があるようです。たとえば、旧来「負け組」としてとらえられがちだった他社による資本注入という形での資金調達も、彼らの感覚では自己の事業に対する評価として前向きにとらえます。むしろ、それを活かして、より大きな成功をつかむための当たり前のステップとする傾向にあるのだと言います。
たとえそれが海外からの投資であっても、むしろ自己の事業の海外での評価を知る格好の機会である。こんなふうに、前向きに受け止め積極的に受け入れる姿勢が、新常識になりつつあるようです。
でも、行き過ぎた新常識は諭すべき!
海外を単なる生産工場、販売市場としてばかりとらえてきた、昭和の経営者との違いは歴然です。新時代の国際化は、このような常識の転換を機に、急速に進むのかもしれません。
しかし「Z世代」の考え方には、注意が必要なこともあります。あらゆる分野でのデジタル化、DX化等進展による技術革新スピードが加速度的に増している今、減価償却するものは陳腐化が早く購入しないという、合理性に基づく彼らの「新常識」も語られています。個人消費では陳腐化する「家は買わない」「車は買わない」、さらには「経年劣化を免れ得ないから結婚はしない」と、人間関係までも合理性を優先する考え方を耳にすることがあります。
しかし、すべて合理性重視がよいというものではなく、経年により新たな価値が生まれるものもたくさんある。これもまた、長く生きてきた人間のみが知る真理です。それを知らずして、合理性に走りすぎることは、失うものも多いと思います。我々昭和世代のビジネスパーソンは、「Z世代」が次々塗り替える新常識に理解を示しつつも、盲目的に追随するのではなく、「行き過ぎた新常識は諭す」という役割も課されているのはないでしょうか。
(大関暁夫)