新型コロナウイルスの登場で、音楽界も「超格差社会」になってしまったようです。
先日、2016年に亡くなったデヴィッド・ボウイの遺産管理団体が、全楽曲の権利を高額(推定約290億円)で販売したとニュースになりました。
最近、ボブ・ディランや、ブルース・スプリングスティーンなど超大物歌手の楽曲権利販売が相次いでいますが、なぜ、数百億円とされる超高額の「もうかりビジネス」が急に盛んになったのでしょうか......。その背景を追ってみました。
500億を超える「もうかり」ビジネス アーティストの目当ては「お金」だけじゃない?!
2022年1月に生誕75周年を迎えた、英国出身の伝説的ロック歌手デヴィッド・ボウイ。世界各国で記念イベントが開催されましたが、最大の話題は米音楽出版社ワーナー・チャペル・ミュージック(Warner Chappell Music)への全楽曲権利の売却でしょう。
推定2億5000万ドル(約290億円)以上とされるビッグな取引を、世界中のメディアが速報扱いで報じました。
David Bowie's estate sells rights to his entire body of work to Warner
(デヴィッド・ボウイの遺産管理団体が、全作の権利をワーナーに売却する:BBC)
right:権利
body of work:一連の作品
今回、売却された楽曲は数百曲にのぼるそうですが、このところ音楽業界では大物歌手の楽曲権利売却が相次いでいます。
記憶に新しいところでは、ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランが3億ドル超(約350億円)でユニバーサル・ミュージック・パブリッシング・グループに、米国ロック界の殿堂ブルース・スプリングスティーンが5億ドル(約580億)でソニー・ミュージック・グループに、それぞれ全楽曲を売却して世間を驚かせました。
海外メディアによると、権利売却が盛んになっている理由は、単なる「お金目当て」だけではないようです。
近年、ストリーミング配信やYou tubeやTikTokなどの動画コンテンツ、広告や映画、ビデオゲームなど、「音楽」が使われる形態が増えるにつれてビジネスが複雑化しています。関係各署との調整や交渉が、アーティストや家族の手に負えなくなるケースが増えていて、「めんどくさいビジネスに巻き込まれるよりは、さっさと権利を売ってスッキリしたい」というアーティスト側のニーズが、巨額ビジネスを後押ししているようです。
ストリーミング配信が加速した「アーティストの生き残り合戦」
ストリーミング配信も、大物アーティストの権利売却を「巨大ビジネス化」した一因だとされています。コロナ過で音楽フェスやコンサートといった「リアルイベント」が軒並み中止となるなか、ストリーミング配信は勢いを増しています。
ところが、世界中で再生されたストリーミングのうち、なんと3分の2が「2年前以上の曲」だそう。確かに、人々の行動パターンとして、認知度が低い「新曲」よりも、前から知っている「お気に入りの曲」を選ぶ方が「失敗」がないのでニーズがありそうです。
ビジネス的には価値が定まっている「過去の曲」、つまり「殿堂アーティスト」に投資をした方が、新人を売り出したり、リアルイベントを開催したりするよりも安定した売上が見込める、という算段なのでしょう。
世界的に低金利が続くなか、「殿堂アーティスト」の権利ビジネスは、数百億円の投資をすぐに回収できることから、専門家は「lucrative business」(大もうけのビジネス)だと解説しています。
それでは、「今週のニュースな英語」は、この「lucrative」を使った表現を取り上げます。「もうかる」という意味の形容詞ですが、ビジネスの場面でよく使われますし、TOEIC頻出単語の一つでもあります。「うほうほ(もうかる)」といったイメージです。
The merger proved to be very lucrative
(その合併は、結果としてとても儲かった)
She advised me to look for more lucrative business
(彼女から、もっと儲かるビジネスを探すようにとアドバイスされた)
It' a lucrative business!
(儲かるビジネスだ!)
大物アーティストたちの権利ビジネスが「うほうほもうかる」なか、コロナ過でライブ活動ができない多くのアーティストたちは厳しい生活を強いられています。ストリーミング配信の大手・スポティファイには、毎日6万もの新曲が加わるとか。音楽業界の生き残りは、想像以上に厳しいものでした。
(井津川倫子)