コロナ禍の影響で、オンラインでのやりとりが増えている。本書「オンライン講座を頼まれた時に読む本」は、オンライン講座を成功させるためのスキルはもちろん、オンライン・コミュニケーションがうまくいくコツが実践的に書かれている。企業の研修などで話す人には必見の本だ。
「オンライン講座を頼まれた時に読む本」(天笠淳著)日経BP
著者の天笠淳さんは人事コンサルタント。株式会社アネックス代表取締役、一般社団法人次世代人材育成機構代表理事。早稲田大学商学部卒業後、ソニー生命保険、IBMビジネスコンサルティングサービスなどを経て独立。「Zoom」を使ったWeb配信セミナーなどのオンライン講座を行っている。
オンライン・コミュニケーションの「3つ」のコツ
オンライン上でのコミュニケーションについて、天笠さんは、3つの要素が必要だという。
1つ目は「印象」だ。自分の表情が相手にわかりやすいように、可能な限り部屋を明るくすることだ。1000円前後のデスクスタンドも役に立つ。次にアイコンタクトをすること。カメラの高さと目線の高さを同じようにするだけで、印象はガラリと変わる。
2つ目は「伝える力」だ。映像はあまり関係がなく音声が重要だという。また、話の全体像や話す手順を伝える「MAP法」を紹介している。話の地図という意味で、「自分の主張について、どんなプロセスで話を展開していくか」を説明する手法だ。
3つ目は「聴く力」だ。聞き手に要求される。アイコンタクトをする、うなずいて相手への理解を示すことが大切だ。
そのうえで、傾聴できる時間の限界は30分だとしている。適度に質疑応答を入れたり、休憩をはさんだりことも必要だという。
テキストの情報量を増やし、事前配布するのがベスト!
一方で、オンライン講座の成功の8割は、準備にかかっているという。
そこで、研修開催の1~2週間前に、「オンライン講座ごっこ」をすることを勧めている。講師側は受講者のITリテラシーのバラツキなどを見られるし、受講側は通信環境などを確認できるからだ。
では、もしあなたがオンライン講師を任せられたら、どうすべきか――。まずは、テキストを棒読みすることだという。きちんと読み上げ、次に自分のコメントを付け加える。解説後は、受講者に感想や意見を求める。このステップの積み重ねで進める。
用意するテキストについても、一般的な「対面式」とは違いがある。
1 情報量を多くする。
2 事前配布する。
実際には、講師の台本を受講者に渡すくらいの感覚でいいそうだ。
テキストの情報量を多くしておくメリットは、時間調整に使えること(このあたりも、「対面式」との違いだろう)。また、事前配布するのは、受講者の通信インフラがさまざまなためだ。
これは万一、通信環境の問題で画像が止まったとしても、テキストがあれば、音声だけで講義を続けることができる。事前配布には抵抗があるかもしれないが、講座中に何が起きるかわからないオンライン講座では、進行を止めないことがなりより大切だ。
意外と盲点かもしれないのは、時間設定。これも重要だ。対面よりは時間を短くするほうがいい。学校の時間割と同じように、45~50分に1回、あるいは75~80分に1回くらい休憩を取ることを勧めている。
ほかにも、受講マナーのルール化も必要だ。天笠さんが実際に使っている「運営上のお願い」のスライドは以下の通りだ。抜粋しよう。
・飲み物は飲んで頂いて構いません、食べ物はお控え下さい
・ご発言、ご質問は名前を言ったあとにお話下さい
・講義を約10分~15分、感想質問5分~10分の繰り返しで講座は進めます
・休憩は60分~90分毎にとります、その際に質問、ご意見いただければ幸いです
いろいろある配信システムへの理解も必要だ!
いま、オンライン配信システムもいろいろある。そのため、「ZOOM」など配信システムへの理解も必要だ。天笠さんは顧客が指定する配信システムに対応するため、5種類のシステムを活用しているという。
しかし、アップデートがあまりにも早すぎるため、基本機能だけを覚えておき、普段使わない機能については十分練習しているそう。もっとも、チャット機能、資料を共有する機能、グループディスカッション機能あたりを使いこなせば、対面以上に充実した研修ができるはずだ。
音声と映像に関する配信環境づくりにも注意を払いたい。パソコン内蔵のマイクは音質がいまひとつなので、外付けのマイクを使うと、声の大きさが均一になり、周囲の雑音を拾うことが少なくなる。
カメラも、パソコン内蔵カメラやパソコン用Webカメラの画質に満足しない場合は、家庭用のホームビデオとつないで使う手もある。意外と、iPhoneなどのスマートフォンも使えるという。ちなみに、背景はバーチャル背景よりもキャンバス布1枚がいいそうだ。
こう見ていくと、受講者からしたら、テキストが事前配布され、話の全体像や話す手順を伝える「MAP法」によって、進行がわかるオンラインのほうが、対面よりも安心感があるような気がしてきた。
オンライン講座の普及によって、対面での研修も質の向上が求められるのではないか、そんな感想すら持った。
(渡辺淳悦)
「オンライン講座を頼まれた時に読む本」
天笠淳著
日経BP
1980円(税込)