明日は我が身かも?SNS炎上の脅威 企業広報が知っておきたい「危機管理」術

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   ネットで批判が殺到する「炎上」という現象が、ひんぱんに起きるようになった。

   炎上はなぜ起こるのか。どういう人が参加しているのか。企業は炎上にどう対応するべきか。これらについて研究者が書いたのが、本書「炎上する社会」(弘文堂)である。

   副題が「企業広報、SNS公式アカウント運営者が知っておきたいネットリンチの構造」。企業の広報担当者に一読を勧めたい。

「炎上する社会」(吉野ヒロ子著)弘文堂

   著者の吉野ヒロ子さんは、帝京大学准教授・内外切抜通信社特別研究員。「ネット炎上を生み出すメディア環境と炎上参加者の特徴の研究」で博士号取得。専門は広報論、ネットコミュニケーション論。

   炎上はどのくらい発生しているのか――。同書では、J-CASTニュースで報じられた炎上事件の件数を紹介している。2006年が22件、2013年が81件、2018年が123件と増加傾向にある。

SNSは企業のPRに便利だが、ソーシャルリスクもゼロではない
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炎上の件数が増えた理由とは?

   吉野さんは炎上の件数が増えた理由として3つの理由を挙げている。

1 Twitterなどのソーシャルメディアが普及したことで、炎上が発生しやすくなった
2 「炎上」という概念が広く知られるようになった
3 ネットニュース・まとめサイトなどネットの動向を記事化するメディアが増加した

   最初に「炎上」という表現を使ったのは、評論家の山本一郎さんだという。2005年のことだ。ネットのごく一部で使われていたが、ソーシャルメディアの利用が盛んになるにつれて、次第にマスメディアでも報道されるように。以来、それまでなら見過ごされていたことも騒動になりやすくなった。

   炎上に参加したことがある人は、少なくとも100万人は超えているのではないかと推測している。ネットユーザー全体からすると少数派だが、影響力は大きい。メディアに報道されるほど大きな炎上を起こした企業は株価が有意に下がっている、という報告もあるそうだ。

   では、どんな投稿先が多いのか。炎上の誕生には「2ちゃんねる」が大きな役割を果たしているが、2010年頃からTwitterでも炎上が起き、参加者がより多様になったという。

   第3章「Twitterでは炎上についてなにが投稿されている」で分析していて、事例として企業が対象になった2例を取り上げている。かなり突っ込んだ内容なので、詳しく紹介したい。

いまはTwitterでの炎上が主流?

   1つ目は、2016年に起きたパソコン販売店の事件。顧客の家族が、不当なサービス契約を行っているとTwitterに投稿したことをきっかけに炎上。その後、謝罪した。Twitter投稿件数と運営会社の株価の推移を示したグラフは興味深い。1か月近くにわたって何度か話題にのぼったため、同社の株価は炎上開始前の1450円から633円に下落したことに驚く。

   2つ目は、2017年に起きたラーメン店のケースだ。公式アカウントに「大は多いので初めての方は小でと再三お願いしたのに大を注文され、半分以上残したので、『2度と来ないでくださいね』」という趣旨の投稿が載ったのが発端だった。

   この炎上には4万7688件の投稿があった。そのうち、最初の10分間で198件のリツイートと7件のリプライ、その他1件の投稿があり、それらの延べフォロワー数は14万7941アカウントになった。

   「たったの10分間でここまで拡散してしまうのが炎上の怖いところです」と書いている。内容は賛否両論があり、テレビの情報番組で取り上げられると、投稿が再び増える傾向があった。これも、ネットならではの現象だろう。

   この事例の場合、発端となった投稿が削除されなかったために、元の投稿へのリプライも残っており、攻撃的なもの、批判的なもの、肯定的なものが入り交じっているのが特徴だ。

炎上に参加する心理...憂さ晴らし・祭り・制裁

   ところで、どんな人が炎上に参加しているのか。先行研究などをもとに3つのモデルを示している。

A 「憂さ晴らし」モデル 経済的状況への不満とストレス
B 「祭り」モデル 社会的寛容性の低さ
C 「制裁」モデル 社会認識・社会考慮傾向の高さ

   さらに、著者の吉野さんが行ったウェブモニタ調査の結果、炎上について投稿する人たちは、一種の社会的な活動として参加しているのではないか、と推測している。

   攻撃的な投稿の比率は低く、また、攻撃的な投稿はリツイートされにくいことも合わせて考えると、ほとんどの人に攻撃的な投稿は支持されない。だから、「普通の人」が参加しているのでは、と見ている。このあたりは一般的な「炎上」のイメージとはかけ離れている。

   最後に、危機管理について、企業の広報担当者へのアドバイスをしている。

   炎上の対応に成功した事例と失敗した事例は興味深い。いわく、すみやかな対応、誰にどう謝るのか・謝らないのか判断する、ごまかされないの3点がポイントだ。本文では、企業名とともに事例を多数挙げているので、参考になるだろう。

   ちなみに、損害保険ジャパンでは、企業を対象とする「ネット炎上対応費用保険」を2017年から販売している。あくまで対応にかかる費用を補償するものだが、コンサルティングサービスがついているので、すみやかな察知が可能になるようだ。

   炎上にはいろいろなタイプがあることがわかったが、なかには明白に誹謗中傷を目的にしたものがあり、断固たる対応が必要なものがある。その場合の、法的措置を取る際の負担やネットでの抑止法にも触れている。

(渡辺淳悦)

「炎上する社会」
吉野ヒロ子著
弘文堂
2420円(税込)

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