「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
まず、「週刊東洋経済」(2022年1月15日号)の特集は、「ライフシフト超入門」。
人生100年時代の覚悟と実践を求めた書籍「ライフシフト」(東洋経済新報社/リンダ・グラットン著)の「1」と「2」をわかりやすく解説したほか、著者インタビューを掲載している。ちなみに、評者も、2016年に刊行された「1」、21年に出た「2」を興味深く読んだ。
これまでは、教育(を受ける)→仕事→引退という人生のステージを順に送るのが当たり前だった。だが、これからは、3つのステージがときに入れ替わり、仕事も途中で変わるのが一般的になる、というのが基本的な主張だ。
年齢と人生のステージは関係なくなる
こうしたマルチステージにおいては、お金や土地といった有形資産だけでは生き抜けなくなる。そこで、収入を得るためのスキルや知識などの「生産性資産」、バランスの取れた生活、家族や友人との良好な関係などの「活力資産」、社会の変化に対応する意思と能力といった「変身資産」の3つが重要になる、とリンダ・グラットン教授は指摘している。
さらに、人生のステージも自己を再発見する「エクスプローラー(探検者)」、独立の立場で生産的な活動をする「インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)」、異なる種類の活動を同時に行う「ポートフォリオ・ワーカー」の3つを体験するという。
そして、年齢とステージは関係がなくなる、と予測する。とくに「2」では、日本を含む世界各国の7人を通して、人生100年時代の生き方を具体的に描いている。さらに、企業や教育機関、政府の役割も論じている。
インタビューでグラットン教授は「新型コロナで新しい挑戦が可能になった。個人は『可能な自己』を探り備えよ。企業は70代でも働ける環境整備を」と話している。また、日本人は「変身資産」に欠けるため、他の人々の生き方からヒントを得られる、と語っているのも印象的だ。
パート2では、ライフシフトを実践した人を紹介している。アナウンサーから弁護士になった菊間千乃氏、都庁幹部から作家になった童門冬二氏らだ。また、ネットを通じて募集したライフシフト体験も参考になるだろう。
「長年、企業のエンジニアとして活動してきた。大学の非常勤講師を引き受け、人材育成の仕事を始めた」(66歳男性)、「36歳のときに会社が解散。1年間の農村ボランティアがきっかけで福井県へ移住」(50歳男性)、「東京から伊豆へUターン。外資系企業管理職から地元企業の準職員として働きつつ、地域貢献できる分野と役割を模索中」(54歳女性)......。これらの実例を読むと、自分でも何かができそうだ、と自信がわくかもしれない。
ライフシフトを可能にする「マネーシフト」の記事も参考になる。iDeCoとNISAを活用すれば、資産形成が可能。お金に縛られず、やりたいことを追求する人生を実現するにも、お金が必要だ。「長期積み立て分散投資の継続が、あなたの未来を豊かにするはずだ」と、フィナンシャルプランナー、山崎俊輔氏は勧めている。
富裕層のマネーは米国に流れている
次に、「週刊ダイヤモンド」(2022年1月15日号)では、「ニッポン沈没 日本を見捨てる富裕層」と題した特集を組んでいる。マネーの海外流出が続き、貧乏大国ニッポンになりかねない、と警鐘を鳴らしている。
日本は今、「七重苦」に撃沈されつつある、と冒頭で警告している。それは、「財政膨張」「日本株離れ」「金融所得課税の強化」「悪い円安」「資源高スパイラル」「脱炭素地獄」「教育後進国」だとしている。厳しい言葉しか並んでいない。
経済アナリストの馬渕磨理子氏が、富裕層が「日本株離れ」している真相について、寄稿している。
それによると、「日本株の負け」に迫るべく、日米株の直近5年間の上昇率を比較している。日経平均株価はプラス57%にとどまる一方、ダウ工業株30種平均はプラス83%、ナスダック総合指数はプラス195%と米国株が圧勝している。
また、世界の運用対象から日本企業が続々と削られているという。MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)の株価指数は、2020年11月以降、3度にわたり、合計65銘柄の日本企業を除外しているのだ。この銘柄入れ替えによって日本から流出する資金は、約9630億円と見ている。
したがって、金融リテラシーを持つ富裕層のマネーは米国に吸い寄せられる。そのため、日本企業は経営課題の中心にIR(投資家向けの情報発信)を置き、わかりやすい成長戦略を世界に向けて打ち出していくべきだ、と提言している。
実際に、富裕層はどんな運用術をしているのか――。資産3億円超の米国株ブロガー、たばぞう氏が手の内を明かしている。
いわく、日本は成長企業の数が米国と比べて少なく、利益の質も違うので、上がる株は米国株から探す方が格段にラクだ、という。そのほか、売上高が順当に増えている、営業利益率は20%以上が目安など成長株を選ぶ7つのポイントを解説している。
「日本を応援するなら、米国のような効率のいい国に投資して利益を上げ、自国に納税する方が、沈みかけている日本企業を買うよりよほど合理的だと考えています」と、積極的に米国株を買う理由を説明している。 特集のパート4では、日本を沈没に追いやる破滅的メガトレンドとして、「脱炭素」の動きなどを挙げている。「脱炭素」が企業に大きな負担を強いるため、鉄鋼やエネルギー業界などが生き残れるのか、と危惧している。
従来、一部のテレビ番組や雑誌・書籍では、日本の強さ・ユニークさをことさら称揚するコンテンツがつくられてきたが、昨年あたりから潮目が変わったような気がする。先進国から日本が脱落するのではないか、どうしたらいいのか。そんな問題意識を持つものが増えてきた。この特集でも、デジタル後進国ぶりや教育後進国ぶりを指摘する記事を紹介している。
2022年は日本のEV元年
最後に、「週刊エコノミスト」(2022年1月18日号)の特集は、「EV&電池 異次元の加速」だ。トヨタがEVに本腰を入れた新しい局面をリポートしている。
「2030年までに30車種のBEV(バッテリーで駆動する純粋な電気自動車)を展開し、グローバルに乗用、商用のフルラインアップでそろえていく。30年にBEVのグローバル販売台数で年間350万台を目指す」
昨年12月、こう宣言したのが、トヨタ自動車の豊田章男社長だ。トヨタが方向を明らかにしたことで、本格的なEV戦国時代に入った。
遠藤功治・SBI証券企業調査部長は、電動化戦略の成功はガソリン車と、ハイブリッド車といった「レガシー車(既存の車)」からどの程度、利益を上げられるかにかかっている、と書いている。レガシー車が利益の源泉であり、これがEVや電池などの研究開発や設備投資になるからだ。
そして、2022年は日本のEV元年になりそうだ。各社の新型モデルについて、編集部が紹介している。日産は22年3月に新型EV「アリア B6」の発売を予定。日産は三菱自動車と共同で、軽自動車のEVの販売も計画している。
軽自動車のEVでは、ダイハツ工業も25年までの市場投入を発表したほか、ホンダ、スズキも意欲を見せている。スバルとトヨタは、共同開発したスポーツタイプ多目的車(SUV)を22年に発売する予定だ。
一方で、充電のインフラ整備も欠かせない。首都圏のマンション用に導入を進める「ユアスタンド」という会社を取り上げている。国から100万円の補助金が出るため、実質50万円程度の負担で済むというから、今後、導入が進みそうだ。充電のことを考え、EV導入をためらっていたマンション居住者にとって朗報だろう。
(渡辺淳悦)