三菱電機の工場での検査不正の発覚に歯止めがかからない。
2021年も押し詰まった12月23日に新たな不正を明らかにし、新旧役員12人に対する処分を発表したが、調査が終わるのは22年4月の見通しだ。世界に誇る日本のモノづくりが負った傷は深い。
品質不正「極めて悪質かつ反倫理的事案」
外部専門家による調査委員会は2021年12月23日、新たに5工場で計29件の不正を確認したとする中間報告を発表した。10月に続く2回目の報告。
鎌倉製作所(神奈川県)で2011年1月~21年8月に製造したETC設備について顧客と全数検査の契約をしていながら一部しかせず、虚偽の試験成績書を作成していた例もあった。
一連の問題が6月に発覚し当時の杉山武史社長が7月に引責辞任した後も、不正が続いていた。ほかにも長崎製作所(長崎県)と福山製作所(広島県)などで新たな不正がみつかった。調査委によると、不正は今回確認分を含め累計で6工場、47件になった。
中間報告発表に合わせ、処分も発表。漆間啓社長は22年1月から月額報酬の50%を4か月間減額するほか、現役の取締役・執行役5人は職務や在任期間などによって10~30%を2~3か月間減給。また、前社長の杉山氏には同50%、6か月分と退任慰労金の一部の自主返納を求め、柵山正樹前会長(21年10月引責辞任)にも同50%、6か月分の返納を要請。さらに別の退任役員4人についても一定の自主返納を求める。
こうした処分は、外部弁護士による「ガバナンスレビュー委員会」の報告書を受けて決定した。同委員会は不正への役員の関与や指示、黙認などの事実は認められないと結論づけた一方、品質管理体制などで「歴代の執行役など経営陣の責任は極めて重い」と指摘。「管理職レベルの社員が長期間にわたって品質不正行為を自ら実行し、許容していた極めて悪質かつ反倫理的な事案」とし、度重なる検査不正は「三菱電機の(経営の)品質を低下させる」と断じた。
発火点は2021年6月の長崎製作所
J-CASTニュース 会社ウォッチは2021年7月21日付で、「三菱電機、絶つことできない不正の根 悪質で深刻、自浄作用なし!」を報じた。三菱電機の長崎製作所では、1985~2020年に約80社に出荷した約8万4600台の空調機器などの製造過程で、長年にわたって出荷前に必要な検査を怠ったり架空のデータを記入したりしていた。
三菱電機では、2016年以降に発覚した三菱自動車などの燃費不正、神戸製鋼所や日産自動車などの検査不正といった問題を受けて、16、17年に社内調査を実施。その後、自社で細かい品質問題が見つかったことから、18年にもグループ全体で総点検したが、一連の不正は見つけられなかった。
不正検査が発覚したのは、21年6月初めから長崎製作所で検査工程のシステム化の調査をする中で把握したもので、「たまたま見つかった」というのが実態だった。これには経営陣もさすがに事の重大性を認識。7月に調査委員会を設置、10月に最初の中間報告、12月には2回目の中間報告を受けた。
調査委は全国22の製作所を順次調べており、22年4月をメドに調査を完了するとしているが、調査が完了した事業所は名古屋製作所可児工場(岐阜県)だけ。延べ2300件を超える申告が寄せられ、調査を終えたのが4割というから、今後、新たな不正が明らかになる可能性がある。
せっかく「増収増益」が見込めるのに......
三菱電機の足元の業績は堅調だ。半導体やスマートフォン関連の設備投資が世界的に一段と活発化していることを受け、工作機械などの需要が高まっていることから、2022年3月期の連結業績予想は売上高が前年比7.4%増の4兆5000億円、純利益が同13.9%増の2200円と、増収増益を見込む。
だが、ブランドイメージは傷つき、製品への信頼が失われていけば、いずれ業績への影響はジワジワ効いてくる恐れがある。三菱電機は22年1月1日付でグループのリスク管理を統括する社長直轄の組織「リスクマネジメント統括室」を新設し、事業部門を横断する形でリスク対応できるようにした。また、経営の監視機能の強化に向け、6月の株主総会で、取締役会の過半数を社外取締役にする方針だが、同様の体制でも、東芝などで不祥事が起きており、これで万全とはいかない。
当面、4月までの調査の結果を待つことになるが、新たな不正発覚もあり得る。経営再建の道のりが容易ではないことは間違いない。
(ジャーナリスト 済田経夫)